外国人も他県の人も、普通にその辺を歩いている
—— あの、これは完全なイメージなんですけど、御手洗さんみたいに若い女性が気仙沼にいきなりやってきて「社長やります」とか言うと、すごく物珍しがられたりしたんじゃないですか?
御手洗瑞子(以下、御手洗) いや、それがまったくそんなことはなくて。気仙沼ってもともと、外部の人が来ることが珍しくないんですよ。それは遠洋漁業の漁港だから。港町って言うと、地元の人が漁に出ていて、港に並んでる船はみんな地元の漁師さんのものだ、と思うじゃないですか。
—— そう思っていました。
御手洗 気仙沼の港にある船は、長崎、富山、高知……いろいろなところから来た船なんです。水揚げだけしてその日のうちに出て行く船もいるし、1日停泊して気仙沼で過ごす漁師さんたちもいる。この人たちが落とすお金は、気仙沼の大事な収入源です。
—— なるほど。
御手洗 先日も、焼肉屋さんで気仙沼ニッティングのメンバーとお昼を食べてたら、日に灼けてガタイのいいお兄さんが、スタッフのえりこさんに向かって「あー! えりちゃん!」って言ったんです。えりこさんもその人を知ってるらしくて、聞いてみたら「この人、カツオ船で宮崎の人なの。一本釣りしてるんですよ!」と。
—— おお、いつも気仙沼で水揚げしてるから、知り合いになるんですね。
御手洗 その人は「えりちゃん、編み物の仕事始めたんでしょ」って。
—— なんと、近況まで知っている。
御手洗 その漁師さんは水揚げの度に気仙沼に来るから、えりこさんとも知り合いになったし、人づてに近況も聞いていると。そういう感じで、気仙沼以外の地域の人がいることが、当たり前の町なんです。外の人を受け入れるオープンな土壌がある。気仙沼って、震災後に来る人が他の地域より多かったと思うんです。
—— たしかに。私も、東北に震災後何回か行きましたが、その中でも気仙沼は一番多く行っています。
御手洗 「漁船誘致」という言葉を、私は気仙沼に行ってから知りました。観光客を呼びこむみたいに、漁船を気仙沼に誘致するんですよ。
—— 港を使ってください、と。
御手洗 はい。気仙沼の港で水揚げしてもらえれば、市場やその関係者が潤うし、船に積む物資を手配する会社にもお金が落ち、漁師さんが飲食店に行けばそれも町の収入になる。それに、気仙沼に新鮮な魚が揚がるから、水産加工会社も商売をしていかれるんです。漁船が、町の経済の一番川上にいるんですね。ちなみに、船には海外の人も乗っているので、外国人も普通に町を歩いています。
—— 『気仙沼ニッティング物語』にも、いつものコーヒー屋さんに行ったら、店内が東南アジア系の若者でいっぱいだった、という話が書かれていましたね。
御手洗 そうそう。外洋が時化てて、三陸沖で漁をしていたカツオ船が気仙沼湾に避難していたんですよ。その船の船員さんが、みんな気仙沼で時間をつぶしていて、Wi-Fiの使えるカフェがいっぱいになっていた。たぶん気仙沼ではない、もう少しクローズドな村社会的な町だったら、私が行った時も「知らない人が町歩いてる……」と目立ったと思うんです。でも、気仙沼では最初から拍子抜けするほど珍しがられませんでした。そこに私がいることに、誰もなにも驚かない(笑)。
—— もっと珍しがってくれてもいいんだよ? と(笑)。
会社経営は不安だった。でも、気仙沼に住むことはこわくなかった
御手洗 しかも気仙沼の人達自身も、遠洋漁業の関係で海外に出ることが多いんですよね。例えば、船はスペイン沖でずっと漁をしていて、その船の持ち主や技師さんが、なにかあったときに飛行機でそこまで行く、というパターンもある。
—— 毎回、船で行くわけではないんですね。
御手洗 だから、遠洋漁業の関係者の人たちは、羽田や成田を当たり前のように利用しているんですよ。そりゃ、東京人を珍しがったりもしないですよね(笑)。