突然ですが、ビール好きのみなさんは人生の99%を損しているかもしれません。なぜなら、ビールのおいしさや楽しさを、控えめにいって1%しか知らない人がほとんどだからです。
それはどういうことでしょうか。
多くの日本人が飲んでいるビールは、どの銘柄もすべて同じ味なのです。
衝撃の事実をざっくり言いすぎて、関係各所からご連絡がありそうな胸騒ぎがします。もう少し補足しましょう。 「スーパードライ」「一番搾り」「黒ラベル」「ザ・モルツ」など大手ビールの代表的銘柄はすべて「ピルスナー」というスタイル(ビールの種類のこと)で、ほぼ同じような味わいです。(もちろん味の違いはあるのですが、あくまで同系統の中での味の違いです)
「とりあえずビール」という言葉がその事実を物語っています。みんなビールは同じ味だと思っているので、銘柄を指定することはないのです。もちろん、これは悪いことではありません。各社競い合っておいしいピルスナーを造り上げ、それが日本人の口にも合っていたということなのですから。
しかし、実は、ビールは多彩な味わいが魅力のお酒で、その味わいの種類は100以上にもなります。2杯目、3杯目以降は、カクテルやワイン、ウイスキーを飲んでいませんか? 実は、2杯目以降のお酒としてもおいしいビールはたくさんあります。
フルーツのような軽い味わいから、ブランデーのようなどっしりとした味わいまであり、さらにはワインのように熟成させて味の変化を楽しめるビールまであります。ビールは、ワインやウイスキーよりも味の幅が広いお酒なのです。
申し遅れましたが、僕はビアライター・ビアソムリエの富江弘幸と申します。 ビールの魅力に取りつかれ、その世界にどっぷりハマってしまった結果、ビール専門誌などでビールの記事を執筆するようになりました。ビールの魅力を伝え、いかに多くの人をこちら側に引きずり込むか、ということを日々考えています。
この連載では、とりあえずビール派の方、「クラフトビール」に興味が出てきた方、ワイン・ウイスキー派の方にも、みなさんが知らない残り99%のビールのおいしさ、楽しさをお伝えしていきたいと思います。
ビール界の最先端を行くビール専門店はここだ!
今回は僕がおすすめする、現在の日本・世界で最先端を走っているビール専門店を6軒紹介します。飲みに行けば、今のビール事情がわかると言っても過言ではありません。
これらのお店での、ビールの楽しみ方の基本を2つお伝えしておきましょう。
1.アルコール度数の低いビールから、度数の高いビールへ
2.すっきりした味わいのビールから、濃い味わいのビールへ
こうやって飲むことで、それぞれのビールの味をよりしっかりと味わうことができます。
それでも迷ってしまったら、店員さんにオススメのビールを聞いてみてください。「何杯目なのか」「どんな味が好みなのか」といったことを伝えれば、ぴったりのビールを教えてくれるはずです。時には冒険してみると、思わぬ出合いもあって世界が広がるかもしれません。
大事なことなのでもう一度言っておきましょう。ビールはワインやウイスキーよりも、味の幅が広いお酒なのです。
【1軒目】8月22日オープン!
世界が注目するミッケラーの直営店
Mikkeller Tokyo(渋谷)
Mikkeller Tokyoオープン前日のプレスパーティーでの様子
まずは、いま一番新しい注目のビアバーです。2015年8月22日、渋谷区宇田川町に「Mikkeller Tokyo(ミッケラー・トーキョー)」というビアバーがオープンしました。
僕はこの日をどんなに待ち望んでいたことか。このお店ができたことで、渋谷に行く理由が増えました。渋谷という街のレベルもワンランク上がったはずです。少なくともビールファンには。
ミッケラーとは、いま世界を席巻している大注目のブルワリー(醸造所)です。自前の醸造所を持っていないのですが、他のブルワリーの設備を借りておもしろいビールをたくさん造っています。そのブルワリーの直営店がこの店で、アジアではバンコク、ソウルに続く3店舗目。オープン当日には100m以上の行列ができたほどの人気です。
Mikkeller Tokyoの魅力的なタップメニュー
カウンターの向こうにはずらりとタップ(ビールのサーバー)が並び、その上には1から20まで、ビールのメニューが書かれています。このうち16種類がミッケラーのビールで、残り4種類をゲストビールとして他のブルワリーのビールを提供しています。この他にボトルビールが80種類あるそうです。
これだけ種類が豊富だと、前菜からデザートまで対応できるくらいの味のバリエーションがあります。ちなみに冒頭で述べたような、みなさんがよく知っている味わいのビールはひとつもありません。
例えば、飛び抜けて酸っぱいビールや、目が覚めるほど苦い(しかし爽やかな)ビール、フルーツを使ったビール、コーヒー豆を使ったビール、そしてなんとアルコール度数21%のビールまで。すべて味わいや造り方が異なり、それだけで「ビールってなんでもアリなんだ」という可能性を見せてくれます。
中にはチョコレートに合うビールも
それでいてオープンな雰囲気も魅力です。店は開放的で、テーブル席もありますが、会社帰りにサクッと1杯だけスタンディングで飲むという使い方もできます。ミッケラーは一期一会の限定ビールも多いので、気になったものがあったら迷わず飲みましょう。うーん、通ってしまいそうです。
■こんな人にオススメです
・最先端のビールを知りたい
・いろいろなビールを飲んでみたい
・気軽に1杯だけ飲みたい
ここからはビール初心者へのオススメ順で紹介していきましょう。
比較的取っ付きやすいと思われるお店から並べていますが、どのお店でも驚きの体験ができること間違いなしです。
【2軒目】ヤッホーのビールをすべてタップで
よなよなビアキッチン(神田・赤坂見附)
「よなよなエール」というビールを聞いたことがある方も多いでしょう。そのよなよなエールを造るヤッホーブルーイングの公式ビアレストランがこのお店です。
■こんな人にオススメ
・ヤッホーブルーイングのビールが好き
・おいしい料理に合わせてビールを飲みたい
・ここだけの限定ビールが飲みたい
公式ビアレストランだからこそできる、定番がすべてタップで飲めるという魅力。タップで飲むフレッシュなおいしさをじっくり味わってみてください。赤坂店・神田店ともに、どちらも看板料理のローストチキンやオリジナルソーセージなど、フードにも力を入れています。
飲む順番は、
「よなよなリアルエール」→「インドの青鬼」→「東京ブラック」
でいってみましょう。
コンビニでも缶の「よなよなエール」は買えますが、リアルエールはまた別物。飲んだ瞬間、プチ衝撃を受けます。炭酸があまりないので、最初は違和感があるかもしれませんが、その分モルト(麦芽)の甘味や旨味がダイレクトに感じられます。「ああ、こんなビールもあるんだ」と、じんわりと飲めるビールです。
次は、ホップの苦味がガツン! とくる「インドの青鬼」。それでいて柑橘系の香りもあり、これでハマってしまう人も多いビールです。その後には、ローストの苦味が特徴の「東京ブラック」。デザートの「東京ブラックビタープリン」とぜひ合わせてみてください。「プリンとビール?」と思うかもしれませんが、ビールのロースト感とプリンの甘味は合うんです。
赤坂店だけでしか飲めない限定ビール「Pale2015」
なお、店舗限定ビールが出ていることもあります。この記事を執筆している時点では、赤坂店限定で30樽だけの「Pale2015」というビールが出ていました。
見つけた瞬間に、飲む順番なんて関係なく即注文。もう二度と出合うことのないビールかもしれないのですから、そりゃあ飲んじゃいますよね。
【3軒目】キリンの技術力で造る「クラフトビール」が飲める
SPRING VALLEY BREWERY(代官山・生麦)
ミッケラーとは違った意味で、「ついに来たか!」と思わせた店です。このお店はキリンビールの子会社であるスプリングバレーブルワリーの専門店。大手ビール会社がついに「クラフトビール」に本腰を入れてきた感じがあります。
正直言って、失礼な言い方ですが「大手もやればできるじゃん」と思ってしまいました。ビールを造る技術力は抜群に高いのですから、おいしいのは当たり前と言えば当たり前なのです。代官山のようなオシャレな街には縁遠かった僕ですが、やっと行く理由ができました。
■こんな人にオススメ
・大手が造る「クラフトビール」が飲みたい
・ブルワリーの雰囲気を感じながら飲みたい
・ここだけの限定ビールが飲みたい
スプリングバレーブルワリーは、東京・代官山と横浜・生麦のキリンビール工場内にあります。特に代官山は、実際に使っている設備が目の前にあり、臨場感あふれる中でビールが飲めるのです。なかなかビール造りの現場は見られないですよ。
定番6種類が飲み比べできるテイスティングセットとそれに合うおつまみのセット
ここではまず6種類のテイスティングセット(1000円)を注文しましょう。フラッグシップの「496」や麦芽の旨味とホップの香り・苦味がバランスよくまとまっている「COPELAND」、ラズベリー果汁を加えた「JAZZBERRY」など、定番ビールは6種類を飲み比べできます。テイスティングの後は、気に入ったビールを飲んでみるといいでしょう。
もちろん限定ビールもあります。僕が訪れたときには「IPA#1」というビールが提供中でした。1日50杯限定ということなので早い者勝ちですね。また、造り方は同じでホップの種類だけ変えているという、3種のビールのテイスティングセットもありました。ホップが変わるとフレーバーも変わるということがよくわかります。
【4軒目】ビール専門店の価格破壊
クラフトビアマーケット(虎ノ門、神保町、淡路町、三越前、高円寺、吉祥寺)
このグラス1杯がなんと480円
2011年に最初の店舗、虎ノ門店をオープンさせたときはビール専門店に革命を起こしたとも言われたお店。その理由は、グラス(250ml)が480円、パイント(475ml)が780円という、他店には真似のできない安さです。
■こんな人にオススメ
・とにかく安く飲みたい
・国内の人気「クラフトビール」が飲みたい
・みんなでいろいろなビールを試したい
クラフトビールに興味を持ち始めた人が気軽に入れる店で、神保町や高円寺など都内に7店舗展開しています。どの店舗もタップは約30種類。毎日同じビールがあるわけではなく、何かしら銘柄が入れ替わっています。お店のウェブサイトに「本日のビール」が載っていますので、どんなビールがあるか行く前にチェックしてみるのも楽しいです。
料理も店舗ごとにコンセプトが違っていて、ローストチキンがウリの店だったり、ピザやフレンチベースの料理だったり、すべての店に行ってみたくなります。深夜にこの記事を書いているのですが、ビールメニューを見てどんな料理と飲むかを考えていると、筆がまったく進みません。
さて、気を取り直して飲む順番をご紹介しましょう。あくまでも一例で、必ず提供されているわけではありませんのでご注意を。
「越乃米こしひかり仕込みビール」(スワンレイクビール)
→「COEDO毬花-marihana-」(コエドビール)
→「ウェストコーストIPA」(グリーンフラッシュ)
まずは、「越乃米こしひかり仕込みビール」。新潟のコシヒカリを使用することで、大手ビールのピルスナーよりすっきりしています。夏の1杯目には間違いないでしょう。次は「COEDO毬花-marihana-」で、こちらはアルコール度数4.3%と軽め。とはいえ、華やかな香りとしっかりしたホップの苦味が口の中に広がります。コエドビールの中でもこのビールだけは、樽でしか提供していません。そういったビールはついつい注文してしまいますね。
最後はアメリカのグリーンフラッシュが造る「ウェストコーストIPA」。強いホップの苦味とどっしりとしたボディが特徴です。ちなみに、グリーンフラッシュはシムコーというホップの購入量が世界一で、世界での消費量の7%がグリーンフラッシュによるものだそうです。ホップ好きには外せないブルワリーです。
と、このように3杯飲んでも他店での2杯分くらいのお値段。じゃあ、もう1杯飲んでしまいましょう、となりますよね。数人で訪れていろいろ飲んでみるのも楽しいです。
【5軒目】スコットランドの個性的なビールの数々
BrewDog Roppongi(六本木)
スコットランドのBrewDog(ブリュードッグ)というブルワリーの直営店です。このお店もMikkeller Tokyo同様、オープン日には行列ができました。
ミッケラーとブリュードッグ、世界で最も人気のあるこの2つのブルワリーの直営店がある都市は、世界でも東京だけです。ミッケラーで飲んでブリュードッグをはしご、なんてワクワクしてきます。
■こんな人にオススメ
・世界で流行している個性的なビールが飲みたい
・少量ずついろいろ味わいたい
・ビールに合う料理も楽しみたい
ブリュードッグは、画一的な味のビールが出回っている状況を打破するため、チャレンジングで個性的なビールを造ろうと、スコットランドの2人(と1匹の犬)が設立しました。そのため、ホップを大量に使用したビールや、アルコール度数41%のビール、バーボン樽で熟成させたビールなど、今までのルールにとらわれないビールを造っています。それでいてバランス感覚のよさが人気の理由でしょう。
ここでは、
「ディス・イズ・ラガー」→「パンクIPA」→「ココアサイコ」
といった順番で攻めてみましょう。
まずは「ディス・イズ・ラガー」。飲み慣れている大手ビールもラガービールなのですが、一口飲めば違う味わいだということがわかるはず。フローラルな香り、レモンのようなさわやかさが、1杯目には最適です。
2杯目はフラッグシップの「パンクIPA」。圧倒的なトロピカルフルーツのようなホップの香り、しっかりとした苦味、鼻から抜けるグレープフルーツフレーバー。一般的なラガービールの40倍ものホップを使用しており、ビール界に革命を起こしたと言っても過言ではないほどのビールです。何があってもこれだけは絶対飲んでください。
最後は「ココアサイコ」。ココアやコーヒーの香り、チョコレートのような味わいで、アルコール度数は10%。「ホームメイド ブレッドプディング」とともにゆっくり味わって、一日の締めとしたいですね。
4種類のビールを少量ずつ選んで味わえるテイスティングセット(2000円)もオススメです。その場合は、カラメル感と苦味が心地よい「5A.M.レッドエール」を加えると、バランスのとれた4種類になると思います。
【6軒目】ベルギービールを知りたいならこの店へ
デリリウムカフェ(銀座・霞ヶ関・赤坂・新宿)
「デリリウム」というベルギービールのブランドのお店です。とはいえ、デリリウムだけを置いているのではなく、日本で飲むことができるあらゆるベルギービールを提供しています。
特に銀座店では40タップもあり、ボトルも含めて100種類以上ものベルギービールを楽しめます。
■こんな人にオススメ
・ベルギービールが気になっている
・雰囲気のあるグラスで飲みたい
・どっしりとした味わいのビールが好き
40タップもあるといろいろ目移りしてしまいますが、
「セリス・ホワイト」→「デリリウム・トレメンス」→「セント・ベルナルデュス・アブト」
といった順番で飲んでみましょう。
最初は「セリス・ホワイト」です。「ヒューガルデン・ホワイト」というホワイトビールを聞いたことがある方もいるかもしれません。一度は廃れてしまったそのビールを復活させたピエール・セリスが、自分の名前を冠して造ったホワイトビールです。
彼は醸造所が火事になったり、大手ビール会社に買収されたりと、なかなか波乱の人生を歩んでいるのですが(2011年没)、さらにもうひとつ「セント・ベルナルデュス・ホワイト」というホワイトビールも造りました。その中でも、オレンジや紅茶のような香りも感じられるこの「セリス・ホワイト」が、彼の一番思いの詰まったビールなのではないかと勝手に想像しています。彼の3部作の中では一番好きですね。
ピンクの象が目印の「デリリウム・トレメンス」
2杯目は「デリリウム・トレメンス」。ピンクの象がボトルやグラスに描かれており、飲み過ぎるとこのピンクの象が見えるようになる、と言われています。アルコール度数は8.5%もありますが、強さを感じさせずに飲めてしまう危険なビールです。
3杯目は「セント・ベルナルデュス・アブト」。修道院が造るトラピストビールの中でも、現地に行かないと買えない「ウェストフレテレン」というビールがあるのですが、そのビールと同じレシピで造られています。言ってみれば「レアもの」とほぼ同じ味わいが日本で飲めるのです。アルコール度数は10.5%。濃厚で、レーズンやチョコレートを思わせる味わいがあり、ワッフルなどのデザートと合わせて最後にゆっくり飲むといいでしょう。
ちなみに、これらのビールはすべてその銘柄の専用グラスがあります。ほとんどのベルギービールがそうなのですが、その銘柄が一番おいしく飲める形になっています。聖杯型、チューリップ型など、そのグラスで飲んでいるだけでいい気分になるから不思議なものです。これもお店で飲む楽しさかもしれませんね。
いかがだったでしょうか。今回の6店は、どこに行ってもあなたのビール観を変えてくれると思いますが、目的に合わせて店を選ぶとよりよい体験になると思います。
とにかくビール界の流行を知りたいと思ったらMikkeller TokyoやBrewDog Roppongiへ、お手頃価格でいろいろ飲みたいと思ったらクラフトビアマーケットへ、というように。まずは、ビール専門店でビールの世界への扉を開けてみましょう。残り99%の楽しさは目の前にあります。
乾杯!
次回へつづく