電気サーカス 第51回

ネットへの常時接続が普及しはじめた時代。『テキストサイト』をはじめた“僕”は、友人や高校入学を控えた真赤と共同生活を送っている。ある日、共同生活を送っているマンションにサイトを通じて知り合った男、宇見戸がやってきて……。

 このサイトの管理人はこういうやつで、ああいった女と付き合っている。ここの管理人はこんな下品な文章を書いているけれど、年のいった立派な大人である。といったような話をするのは主に宇見戸とタミさんであった。
 宇見戸はイベントなどを開いているだけあって、さすがによく知っているのだが、タミさんが予想外に詳しいのがちょっとした驚きだ。知らぬ間に宇見戸などと遊びに出かけ、ネット上の知己を増やしているらしい。僕よりもよほど顔見知りが増えている。
 僕はそれなりに長い期間サイトをやっていたけれど、ネット上の知人など、サイトを見てメールを送って来たような相手ばかりで、それもICQなどでは話すものの、実生活上の関わりを持つことはまずなかった。殆ど相手の顔さえ知らない。宇見戸や真赤と出会ったのだって、そもそも強く誘われて行ったオフ会でのことである。
 タミさんだって、テキストサイトの人間と直接的な関わりをもったのはあのオフ会が初めてだったはずなのになあ。僕を通じての薄い接点だったはずなのに、あっという間に僕よりも広く深くテキストサイト界にコミットするようになってしまっている。そういや、RMの時も、僕が一人鬱々と他の参加者を呪っている間に、如才なく知り合いを増やしていたものな。女性の連絡先なども、いくつか入手していたのじゃないだろうか? 恋人ではない、女性らしき相手と電話をしている光景を最近よく見る。普段は人畜無害のような顔をしていながら、実に抜け目のないことだ。
「タタミザワさんが時々書いてる夢日記も、すごく面白いよね。もっとちゃんとした日記サイトにしたらどう?」
 宇見戸がいつも通り真心の感じられぬ愛想の良すぎる声色で言う。
「ええ? いいよ。おれのサイトはそもそもテキストサイトじゃないし。仕事の営業用だから」
 タミさんは嫌な顔をして否定する。
 そして宇見戸とタミさんがもうあれはテキストサイトだ、いやそうじゃないだのといった不毛なやりとりをしていると、真赤が唐突に「私、オフ会を主催したい」と言い出した。
「たけしさんを呼んでね、みんなで鑑賞するオフ会をやってみたいの」
 たけし、というのは、僕はあまり読んだことがないのだが、真赤は非常に気に入っているサイトの管理人である。彼女が増岡名義でやっているのと同じような、女性に縁がない独身男性で自分の欲求を日記として書き綴っている。ただ叙情的かつ空想的な真赤とは少し傾向のちがった書き方だったような気がする。僕も一度だけそのサイトの文章を読んだことがある。
 基本的に明るく害のない無邪気なキャラクターのようなのだが、その内容は自分の性器のことを語ったり、風俗店の体験談を書き連ねたり、通りすがりの女子学生に卑猥な妄想をしたと訴えてみたり、とにかく女と性の話題しかない。もっとも、それが特別不道徳かというと、そうではなく、ネットではよくあるタイプの日記とも言える。
 女だったら、モテる私の華麗なセックスライフ、というようなスタイルが多く、男だったら、モテないおれの自虐ユーモア、という具合に書くことが多いようだ。それぞれ、そういったスタイルで人を集めた大手サイトがあるから、その影響かもしれない。
 このたけしさんというのは後者だろう。あまりにも具体的に、己の率直に性欲をさらしすぎているのも、本人はおもしろいと思っているのだ。あとで思い出したら一人赤面するに違いない。でもそれでいいのだと思う。と、僕は肯定するしかない。何しろここにいるこの僕も同じ病を煩うテキストサイト管理人であったからだ。

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電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

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