BLには、主人公たちが男同士で性愛関係にあることが全く問題視されない作品もある。そういった作品は、「ホモフォビアがない世界」を前提にしてユートピアを描くわけだが、現実のホモフォビアを弱める未来に続く可能性があるのは、いうまでもなく、今日の日本社会に実在するホモフォビアと主人公たちの葛藤を描く作品群である。
「同性愛者のままでも幸福になれる」というメッセージ
そのなかで、主人公の関係が周囲から断罪される作例としては、まず、マンガ「成層圏の灯」シリーズ(鳥人ヒロミ/2000-02)をあげる。六歳から引き取って育ててきた中学生の甥(英)を叔父(聖)が犯し、そのまま恋人関係となったことが友人にばれて絶交されるエピソードが描かれる。
数十年という長期間を描き、作中で性愛関係になる男性カップルの数も多い本作を詳しく考察するには別の機会を待たねばならないが、ここでは、「美少年マンガ」の『風と木の詩』の系譜でありながら進化形である点に絞って述べる。というのも、実の親に捨てられた英にとって聖は親であり恋人文字どおり“すべて”であり、その点では『風と木の詩』の叔父(で本当は父)オーギュストとジルベールの関係と同様だ。
だが、オーギュストの支配から結局逃れられずに大人になる前に死ぬジルベールと違って、英は生きのびて「ゲイの大人」として写真家としての仕事面でも同性パートナーとの生活面でも成功するのだ。もちろん、あっさりとそこに至るわけではなく、自殺未遂、自律神経失調症、拒食、恋愛と別離と再会、セックスフレンドとの交流などを含めた波瀾万丈で壮絶なプロセスが描かれているため、説得力がある。