交渉の行方

合意したはずの内容が、書類に反映されていない! 書き直しを要求してJセンターの管理事務所を出た僕。終わったら連絡をするといっていたのに、何時間たっても連絡がこない……。いったい何が起きているのだろうか?

 ひたすらJセンターからの連絡を待ち続けた。

 書類ができたら呼ぶと言っていたから、そんなに遠くにも行くわけにもいかない。今度こそ合意した通りの書類ができてくるのだろうか。落ち着かなかった。明日までにcakes の記事も書かなくちゃならないのだが、それにも集中できない。仕方がないのでフィリピン人の部下たちを呼び出したが、気もそぞろで会話にさえ集中できない。一体この日何を話したのか、この原稿を書きながら思い出そうとしても、喫茶店の壁紙くらいしか思い出せないのだ。やがて時計は午後5時を回った。僕は彼らを帰らせると、しびれを切らして管理事務所へと向かった。

 シルビーさんはとりあえず会ってくれた。書類を改定してあるという。それならすぐに言ってくれればいいのに……。煙たそうな顔をする彼女に電子版を送ってくれと伝え、受信した書類をその場で弁護士へと転送した。彼女の目をまっすぐに見ながら「弁護士のOKが出次第、すぐに手付金を払いたい。何時に会えますか?」と尋ねると、「9時か10時頃かしら。」とそっけのない返事だった。

 管理事務所を出ると僕は弁護士に電話して事情を告げ、すぐに書類を確認するよう急かした。もう確認したい部分は決まっている。工事開始時期、エアコン、実際の開校時期の3点だ。見たところ問題なさそうだったが、念には念を入れたい。新たにヘンな文言が入れられてないかどうか、僕自身も再び頭から精査し始めた。

 7時。僕はモール内のマクドナルドで夕飯を済ませた。弁護士からの連絡を待つ。8時過ぎに「問題なし」と連絡がきた。すぐにその旨をシルビーさんに電話で告げる。すると「では9時にオフィスに来てください。手続きを済ませましょう。」と返事が来た。

 9時過ぎにはモールが閉館となる。続々と人が帰り始め、お店のシャッターが次々と閉まり、照明が落とされていく。館内を流れていた音楽も止まり、閑散とした雰囲気になった。そんななか、僕は管理事務所の受付で一人座って待ち続けた。やがてシルビーさんたちがどこからか帰ってきた。どうやら食事にでも出ていたらしい。なぜ僕との手続きを済ませてから食事に出ないんだろう??

 彼女のオフィスに行くと、驚いたことにまだ少なからぬ人が働いていた。「フィリピン人は働かない」というMさんのセリフとは、ずいぶん様相が異なっていた。シルビーさんもまだしばらく働くらしい。この人とは今後もなんども交渉を重ねて行くことになるのだが、その都度困難な交渉を強いられた。この人は別にフィリピンでなくても、どこででも通用するだろう。

 彼女の机の上にはもうプリントアウトが用意されていた。指定の箇所に何箇所もサインをした。僕のコピーとモール側のコピー。それともう一部あった。すべてのサインを済ませると、僕らは改めて握手した。シルビーさんもホッとしたのか、笑顔を見せる。そしてその足で、同じ事務所内の経理課へと向かった。僕が用意しておいた現金を出すと、会計の男の人とシルビーさんは目を丸くした。

 「えっ、現金で払うんですか??」

 僕は苦笑いしながら、今朝シティバンクのATMからお金をおろした話をした。あれは考えてみたら、まだ今朝の話なのだ。3日くらい前の出来事だったような気がする。

 手作業で紙幣を数えるのは思いの外時間がかかった。領収書を発行してもらうと、もう11時近かった。まばらになったタクシーを捕まえると。ホテルへと向かう。あとは明日スタッフに給与を払い、弁護士と打ち合わせをし、そしてやっと帰国だ。あ、cakesの記事がまだ終わってないや。ホテルに戻ったら書こう。

 ようやく原稿をアップロードが終わった頃には、もう午前3時を回っていた。

そして帰国当日の朝に……
 次の日の朝、ホテルをチェックアウトすると、僕はスーツケースを引きずってホテル近くの喫茶店へと向かった。スタッフたちに給料を払うと、今後のことを打ち合わせた。すると、すでにTESDAのトレーナーの資格を持っているリザが気まずそうに切り出した。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
フィリピンで起業しました

松井博

2015年6月6日、フィリピンのセブ島にて英語学校を開校しました。起業への思いや、設立までの「フィリピンあるある」などなど、思い立ってから9ヶ月間の足取りを綴っていきます。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

ISU_instant さっきの続き。 - 約4年前 replyretweetfavorite

Matsuhiro セブで初めての契約を締結するまで。渦中は長く感じる。 約4年前 replyretweetfavorite