ピカピカトイレの家庭は90万円も年収が高い?
最初に、このグラフを見てください。
トイレを清潔にしているとほんとうにいいことがあるのか”を検証するため、大手の日用品メーカー、ライオン株式会社が490人の男女を対象に行った調査からの抜粋です。
自分自身の金運の実感と、現在の世帯年収を、トイレをきれいに掃除している「ピカピカトイレ層」と、そうではない「残念トイレ層」に分けて集計しています。 金運については、「ピカピカトイレ層」に自分は金運がいいと感じている人が、「残念トイレ層」の約2倍いることがわかります。
こうした金運の実感を裏づけるように、世帯年収も「ピカピカトイレ層」が542万円と、「残念トイレ層」の454万円を上回っています。 トイレをピカピカに磨いている家庭は、そうでない家庭より、世帯年収が約90万円も多いことがわかります。
家族関係がよくなると お金に恵まれる
こうした、お金に恵まれやすい傾向について私は、トイレ掃除による家族関係の好循環の結果ではないかと考えています。 トイレがきれいだと家族みんなが気持ちよく暮らせて、家族関係もうまくいきます。そういう家で暮らす人は、そうでない人に比べて前向きで、幸せを感じやすく、この前向きなスタンスや幸福感が、金運がいいという実感につながっていると考えられるからです。
トイレをきれいにできる家とは、気持ちに余裕のある家庭です。そして家族関係が円満な家庭である証です。家族の協力や連携もうまくいきます。それにより、各家庭の働き手の仕事へのモチベーションが上がれば、当然、世帯年収が上がる要因になるでしょう。
社長が率先し従業員の 意識が変わった!
経営学的な立場からトイレ掃除の効果を研究している私のもとには、「我が社も経営に役立つトイレ掃除を導入したい」という経営者からの声が数多く寄せられています。
私がトイレ掃除のきっかけ作りに携わり、その後の追跡調査をした企業は何社もありますが、その中から、今回はある食品加工の会社の例をお話ししましょう。
この会社は業種柄、朝早くから夜遅くまで食品の加工や配送作業に追われていて、トイレ掃除をする余裕などありませんでした。実際に、すべてのトイレの掃除が行き届いていないのは一目瞭然でした。
社長や経営幹部は、そうした状況を打破するために、全員で集まって社内を掃除できるような会社にしようと、私を招いて週1回1時間の掃除を開始しました。トイレ掃除すらできない忙しい会社、忙しいからさらに余裕がなくなるという悪循環を断ち切ろうというわけです。
社長を筆頭に男性正社員の有志が週に1回、1時間かけてトイレ掃除や社内の整理整頓を始めたところ、しだいに女性社員も加わるようになりました。社長たちがトイレ掃除や整理整頓をする姿を見て、他の社員の意識が変わったのです。
約半年後には、パート社員までも加わって、トイレ掃除だけでなく社内の隅々まで掃除するようになり、社内の雰囲気が一変しました。
社内掃除の率先実行者の1人である社長自身が、「社員といっしょにトイレ掃除をすることで自分が変わった」と話しています。口で言うよりも、自分が社員の前で動くことがたいせつだと気づいたのです。
掃除で培った団結力で 業績が改善!
そんな社長の思いは、社員にも徐々に伝わりました。掃除を行う中で、社内の団結が深まっていったと言います。
社員1人ひとりが効率よく仕事をする意識につながり、ダラダラと残業しなくなり、食品の廃棄処分のムダや在庫管理の不備などに自分たちで気づいて改善していきました。
社内掃除を始めて2年間、コストダウンが進み、さらに新しく始めた事業も掃除で培った団結力が生かされ、業績アップにつながったのです。
会社のトイレがきれいになると、取引先など外部の人に好印象をもたらします。昔から言われることですが、銀行員が融資を検討する際に、その会社のトイレが汚いとゆとりがなく、有事の際の対応力がないと判断されます。場合によってはそれが融資を断る理由になるわけです。
トイレ掃除継続の コツは〝利他の精神〟
会社でも家でもトイレ掃除をした後は、汚れていた場所をピカピカに磨いた爽快感があります。しかしこれは、自分の部屋やデスクを片づけたときにも感じられる感覚です。
みんなが使う共有スペースをきれいにすることは、自分のためだけではありません。他者が快適になることをイメージして掃除する、その要素が大きいわけです。
トイレ掃除では、この「利他の精神」がカギとなります。家庭でも会社でも利他の精神が浸透してくると、人間関係でのトラブルが減り、他人を思いやる心が育まれていきます。
また、自分のためにやろうとしても、なかなか続けられませんが、例えば「子どものために」という思いでやると不思議と途中で心が折れず、協力者にも恵まれやすいのです。利他の精神を忘れないことが、トイレ掃除を続けるコツだと言えます。
無心にトイレ掃除を続けるなかで生まれる良好な人間関係と、さまざまな気づきや発見は得難いものです。ほかの日常体験で、トイレ掃除と同様の効果がもたらされるものはおそらくないでしょう。その結果、家庭の金運が上がるのであれば、こんなに喜ばしいことはありません。
大森 信(おおもり しん) 1969年、大阪府生まれ。日本大学経済学部教授。2001年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。企業の掃除活動に注目し、組織の活性化、新事業創造、プロジェクトマネジメントと掃除との関係性について研究している。大阪商工会議所「掃除でおもてなし研究会」座長。著書に、『そうじ資本主義』(日経BP社)、『毎日の掃除で、会社はみるみる強くなる』(日本実業出版社)、『トイレ掃除の経営学』(白桃書房)がある。