人工知能はどこに行き着くのか?
── 小泉さんは内閣府大臣政務官として、「近未来技術検証特区」でドローンや自動運転、人工知能(AI)やロボットなどの社会への導入について検討している。AIを、小泉さんや国はどのように位置付けているのか。
小泉進次郎(以下、小泉) AIはいろんな場所で話題になるようになった。先日、松尾先生とも議論をさせていただいたが、AIは自動走行やドローンとは異なる次元で見ていかないと、国としての対応が追いつかない。そして、間違ってはいけないものだと実感している。
小泉進次郎 氏|Shinjiro Koizumi■2004年関東学院大学経済学部卒業、06年米コロンビア大学大学院政治学修士号取得。09年衆議院議員、13年内閣府大臣政務官・復興大臣政務官。ITやビッグデータを活用した政策に積極的に取り組む
また、世の中で一般にAIと呼ばれているものと実際にAIというものとギャップがあると思っている。今日はAIを活用したロボット「Pepper(ペッパー)」にも来てもらったが、多くの日本人はAIをこうしたヒト型で心を持つ新技術ととらえているのではないか。ギャップに対して、政治家として国の立場を誤らないように、認識を共有していきたい。
Pepperをはさみ、小泉進次郎氏と松尾豊氏が対談
松尾豊(以下、松尾) その通りだ。世の中はAIをPepperや米IBMの(認知コンピューター)「Watson(ワトソン)」のイメージで理解しているが、これはAIの一部分。実はAIには想像も付かないものが含まれている。
特に体を活用する分野だ。熟練した人間の動きはAIできちんとした仕組みを実現すればできる。まさに人間が熟練工として作り込んでいたものだが、ディープラーニングの発達でそれが「変数」で表現できるようになり、(作り込み不要で)突破されようとしている。例えば建設産業の現場の作業は、AIを活用したロボットが行うようになるかもしれない。農業、物流、介護なども同様だ。危険な場所である原発、災害、鉱山、深海などでの作業も任せられる。
小泉 私も行き着く先はそこだと思う。スマートフォンは我々の生活を変えたが、登場から10年も経っていない。10年前にはこうした社会が来るとは思ってもみなかった。AIもスマートフォン同様に我々のライフスタイルを劇的に変えていく可能性があると思う。今後AIで我々のライフスタイルが変わると思うが、どのような分野から変化が出てきそうか。
松尾 まずは防犯だろう。監視カメラの解析能力を向上できるので、不審なことをすると警察が来たり、危険なことをしていると警告したりするようになる。例えば「東京が世界で一番犯罪率が低いのはAIのおかげです」とアピールできれば日本の活力につながる。産業用ロボットの生産性を上げたり、農業の生産を上げたりすることもあり得る。
人間の役割は人との交流や文化の創出に
── 英オックスフォード大学の准教授が、コンピューターに代替されて将来なくなる職業を発表した。
小泉 AIが人の雇用を奪うという見方もあるが、日本は逆に労働力が足りない。これをどう解消し、人口減少下で経済の活力を取り戻していくのか。AIを活用すれば、日本らしくこれらを解消していけるのではないか。日本の持つ技術力を生かして、AIやロボットを可能な限り活用することで、人口減少下でも経済発展を実現できるモデルを示すことができるかもしれない。それが他の国にはない、日本の持つ選択肢ではないだろうか。
松尾 介護にしても医療にしても、物流にしても人手不足の問題が大きい。長期的に見れば日本の人口も多すぎるのかもしれない。工場の生産もAIのロボットが担えば、もう少し少なくてもいいかもしれない。適正な人口規模があり、AIであるべき姿を実現できるのではないか。
地方においても作業の仕事が多く、AIを活用するニーズがあると思う。人間の役割は人との交流や文化の創出といったものに変わっていくはず。AIに地方独自の意味づけをして、新たな価値を創造できる。
小泉 私は地方創生を担当しているが、どこに行っても「人がいない」「子供が生まれない」「人口が減る」という悲観論がある。悲観せず減っても豊かさを次の世代にどう渡すのか。AIのもたらす可能性が関係してくると思う。
松尾豊 氏|Yutaka Matsuo■1997年東京大学工学部電子情報工学科卒業、2002年同大大学院博士課程修了、産業技術総合研究所研究員、05年米スタンフォード大学客員研究員、07年東大大学院准教授。国のAIやビッグデータに関する委員を多数務める
今は規制よりも想像力を
小泉 AIの研究開発を進めるうえで障害となっていることは。
松尾 今は規制よりも想像力を働かせる時期だと思う。技術が進展し、何ができるようになるのか。想像が必要だ。そうして初めて、この法律をこう変えた方がいいと話ができる。そうしないと何のために規制を緩和する必要があるのか分からなくなる。
私が講演や取材に積極的に応じるのも、AIが日本に必要と思っているから。GDPを急回復させるまたとないチャンスだ。小泉さんも言うように変な方向に行くと取り返しのつかないビハインドになってしまう。
米シリコンバレーのITが伸びる理由の説明に、私の出身である香川県の「うどん」の例をよく出す。お客の舌が肥えているから、店同士が競ってうまいものを出す。
シリコンバレーもこのお客さんが優れている。銀行や商社にも昔起業した人がいて「いいものはいい」「悪いものは悪い」と言ってくれる。人工知能も同じ。がんばって開発すれば「いいね」と言ってくれるような環境が必要だ。
── 国としてAIをどのように後押しし、政策に組み込むのか。また、政府、ITに前向きな若手としてどう考えているのか。
小泉 AIを政策に組み込んでいくには、政治家自身がAIの可能性とは何かを正しく理解する必要がある。想像力を高め、日本はAIとどう向き合うのか考えていく必要がある。
その上で、まずはAI、ビッグデータも含めてその領域で活躍できる人材の輩出、教育改革が必要だと思う。プログラミング教育も含めて考える。
次に、AIやIoT(Internet of Things)で様々なものがつながる時代となる。サイバーセキュリティへの対応力が極めて大事になる。AIで支えるインフラがダウンするとその影響は大きい。セキュリティ対策の次元を高めれば、AIを社会に実装していける。
最後の3つ目はAIによってどのような社会を作りたいのかのビジョンを持つということだ。頭にある勝手なAIの像でなく、AIの現実をとらえて今どこまできているのかを理解したうえで冷静な議論が必要だ。政治、官僚、研究者、民間の技術者、ビジネスパーソン、国民が議論できる情報発信が、さらに大切になっていく。
また、松尾先生のようにAIを熟知している人と、技術者やビジネス界の人をつなぐことが必要だと思っている。政治がこうしたつなぎの役割を担うことが必要だと思う。産業技術総合研究所がAIの研究所を東京と筑波に設立した。民間もAIの研究開発に取り組むので、産総研はそうした関係者を橋渡ししていくことも重要な役割になっていくと思う。
政治のあり方も変わる
小泉 最近AI関連で関心を持った記事がある。日立製作所が論理的な対話を可能とする人工知能の基礎技術を開発したというもの。これは、難しい判断を迫られた質問をすると「賛成」「反対」の立場から理由付きの回答を語ってくれる理論武装を助けるソフトウエアを開発しているというものだ。
政治家のあり方をも変えると思った。議論の賛成と反対の論点を、過去の大量のニュース記事や資料などを全部統合してすぐに比較材料として出してくれる。政治家を支えていた秘書や官僚など、様々な情報を共有してくれる側のあり方が激変する可能性がある。例えばPepperが論点を提示して見せてくれれば、感情的な対立にならない熟議ができるのではないかと思う。AIが人と人との理解を深めてくれる役割を果たしてくれるかもしれない。
AIはそのような人と人が理解を深めるところにも大きな活用領域があるのではと感じている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの後は、さらなる人口減少などの課題がより顕在化していくが、日本がAIで新たな社会を生み出していけるという希望も見える。AIによって日本はどのような社会を実現したいのか。専門家だけでなく、多方面の関係者がAIに対する正確な認識を共有したうえで積極的に語り合っていかなければならない。政治もその役割を果たしていきたいと思っている。
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