電気サーカス 第50回

ネットへの常時接続が普及しはじめた時代。『テキストサイト』をはじめた“僕”は、友人と共同生活中。この共同生活に、高校入学を控えた真赤が参加。突然、煙草を飲み救急車を呼ぶはめになったりと、彼女の奇行に振り回される日々を送る。

 夜になって、宇見戸が花園シャトーを訊ねて来た。僕は呼んだ覚えがないから、タミさんが招いたのだろうか。彼はちょくちょく宇見戸と会っているらしい。一方、僕が直接宇見戸と会うのは例のイベント以来だ。
 久しぶりの宇見戸は、よれよれのネルシャツによれよれのジャケットをひっかけた、相変わらずの汚い格好であった。前に見た時よりもこころなしか髭が伸びて、その乱雑な伸び具合も不潔感を向上させている。僕にとっては知っている人間だからまだ良いが、赤の他人が電車などで隣の席に座ったら、立ち上がりたくなるだろう。いや実際そうなったら、僕でさえも立ち上がるような気もする。
 最近は本業の書き仕事もせずに、やくたいもない遊びやら、怪しげな活動やらにふけり、ひどく貧しい生活を送っていると風の噂で聞いていた。が、こうして見る本人の態度にはちっともそんな悲壮感はなく、不自然なほどに上機嫌である。
「ミズヤグチさん! RM以来ですね。そろそろサイト再開しましょうよ。楽しみに待ってるんですから」
 玄関で出迎えた僕に、ニコニコと笑いながら彼は言う。そして、ちょうど真赤が部屋から出てくると、それを見咎めて彼は、
「あっ、増岡だ。ずるいですよ、ミズヤグチさん。増岡は最初に僕が唾をつけたのに、横取りするなんて」
 拗ねるような声色で言うのである。
 リビングではタミさんがコンビニエンスストアで購入してきた焼きそばを食べている。彼は今寝て起きたところらしく、髪の毛にはまだ寝癖がついたままだ。宇見戸はそこでも軽く手を挙げて挨拶をした。
「タタミザワさんもこんばんは。いやあ、RM、良かったって評判ですよ。もう少し温かくなったらまたやります。次はもっと大きな箱でやるつもりなんで、その時は、タタミザワさんもまたDJやってくださいよ」
 そう言えば、タミさんのことはDJに誘うのだけれど、僕には言わないのだな。誘われたいというわけでもなく、また、誘われたからって、あんな風に人前に立つなんてことはけしてしたくはなかったが、誘われなければ誘われないで複雑な気分だ。
 部屋には座布団もなかったので、僕たちはフローリングの上に直に座った。タミさんは食後の緑茶を飲み、真赤は冷蔵庫のコーラを取り出す。僕は部屋からズブロッカの瓶を持ってきて、宇見戸は持参した缶ビールを開けた。
 彼は具体的な用件があってやって来たわけでもないらしい。前から一度ここに遊びに来たいと思っていたところ、偶然仕事の手が空いたので、タミさんに連絡をして寄ったのだと言う。
「仕事が暇って、普段はそんなに忙しいんですか? なんだかいつも遊んでるような感じですけど」
 僕が言うと、
「ひどいなあ」
 宇見戸は愛想笑いをして、
「これでも、いろいろと働いてるんですよ。最近は、本業の他に、芸能関係や、演劇関係の仕事をしてましてね。まあ、これは全然お金になってないから、確かに遊んでると言われればそのようなものなのかもしれませんが。……あっ、それで、今日言おうと思ってたことがあったんだ! ねえ増岡、ちょっと芸能活動とかしてみない?」
「えっ?」
 完全に油断していた真赤は唐突な話に目を丸くする。
「いいと思うんだ。きみは不思議な雰囲気があるし、絶対ウケるから」
「私がですか?」
「うん。だから、今度事務所においでよ。僕が社長に紹介してあげるから。きっと社長も気に入ると思う」

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電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

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