友だちがいる地域の出来事は、他人ごとじゃなくなる

マッキンゼーのコンサルタントからブータンの首相フェローに転身。その後、2012年に震災後の宮城県・気仙沼市で編み物の事業を起ち上げた、御手洗瑞子さん。「気仙沼ニッティング」の奮闘の軌跡を綴った『気仙沼ニッティング物語〜いいものを編む会社〜』を、8月19日に上梓しました。本の出版を記念して御手洗さんに、気仙沼の暮らし、編み手さんのこと、ご両親の話など、ビジネスや社会貢献というジャンルではくくれない、ゆるっとしたお話をうかがってきました。まずは、国際協力の分野に興味を持ったきっかけから。

国際キャンプの目的に、まんまと乗せられて育った

— 私は数年前に「ブータンの日本人公務員」として御手洗さんのことを知りました。だから、御手洗さんといえばブータンのイメージが強かったんです。でも、今では気仙沼ニッティングのプロジェクトをやってらっしゃる期間のほうが長いんですね。

御手洗瑞子(以下、御手洗) ああ、そうですね。ブータンは1年の任期でしたが、気仙沼はもう4年目になります。

— 今回出された『気仙沼ニッティング物語』のプロローグで「学生の頃から国際協力に興味を持ち」と書かれていました。そういうことに興味をもったきっかけはなんだったのでしょうか。

御手洗 小学校高学年の頃から、いろいろな国・地域の子どもが集まって何週間か共同生活をおこなう、国際キャンプに参加していたんですよね。そこで、世界各国に友達ができるという経験をしました。すると、世界の国々で起こってることが、他人ごとじゃなくなるんです。

— 友達がいるから。

御手洗 そう。例えば、アメリカの同時多発テロのニュースを見たとき。フィリピンの国際会議に出席して、立派な会議場から出るとすぐ隣はスラムだったとき。そこに暮らしている人たちのことが、友達を通して親身に感じられるんです。そういう体質になる。

— 体質、ですか。

御手洗 頭で考えるより先に、心や体が反応するようになるんですよね。もともとその国際キャンプは、子どもの頃にいろいろな国に友達ができたら、大人になっても他の国のことを思いやれるだろう、という考えに基づいて、60年以上前から運営されていました。

— そもそも、そういう気持ちを育むためにつくられた場所だったと。

御手洗 そう、その狙いにまんまとはまって育ったのが私です(笑)。

— すばらしいキャンプですね(笑)。

御手洗 いや、本当にすばらしい活動なんですよ。それで学生の頃から、青臭い話ですが、人がふつうに暮らしても、世界の反対側の人を不幸にしない世の中のまわり方になればいいな、と思いながら暮らしていました。

— 世界の人々を不幸にしない世の中のまわり方?

御手洗 ヒト・モノ・カネの流れがグローバルになっている、というのはずいぶん前から言われていることですよね。それをもっと身近に引きつけて考えると、自分の行動が影響を与える範囲が、世界に広がっているということだと思うんです。
 例えば、スーパーで何か商品をひとつ買うにしても、その材料の原産地、加工地、それぞれが世界に点在している。気仙沼ニッティングのセーターも、羊毛はスペインとイギリスから来ていて、毛糸の染色は山形で、紡績は大阪で……と、いろんな国と地域が関わっています。つまり、かつて村社会において共同体内で生産も消費も完結していたときとは違い、自分の見えない範囲まで自分の行動が影響してしまうということだと思うんです。

— うーん、なるほど。

御手洗 でも、人を大切に思える範囲って、相変わらず家族とか友達とかごく狭い範囲に限られていますよね。この「グローバルな影響範囲」と「大切に思える人間の範囲」の乖離が、いろいろな問題を生みやすいんだと感じていました。今思うと、ブータンの仕事も気仙沼の仕事も、こういう発想の延長にあるんですよね。

気仙沼に、セーターを編んでくれた人がいる
それを思うと心があたたかくなる

— 本の中でも「気仙沼ニッティングでご注文いただくということは、もしかしたら、気仙沼にひとり、遠い親戚ができるようなことかもしれません」と書かれていました。「親戚ができる」と「友達ができる」は……

御手洗 そう、つながっているんです。それは、自分でもなぜそう書いたのかわからないんですけど、気仙沼ニッティングのウェブサイトに文章を書くときに自然に出てきた言葉です。それはやっぱり遡ると……

— キャンプで世界中に友達ができて、その人のことを親身に思うと、その土地のことが他人ごとじゃなくなるという。

御手洗 それと同じ発想だなって。自分のセーターを編んでくれた人が、普段の生活では行かないような、気仙沼という遠くの港町にひとりいる。それだけで、気持ちがちょっと豊かになりますよね。

— うん、うん。

御手洗 だから、よくある「支援」という言い方は、肌に合わないんです。

— 支援というと、持てるものが持たざるものへ手を差し伸べる、というイメージがつきますね。

御手洗 そう。しかも、それを無償でやると余計に社会的な上下がついてしまう。すると、結局支援を受ける側の人たちが、自分たちの力で自立するのを阻害してしまったりするんですよね。同じ土俵に乗るというか、対等でいるほうが、相手にとってもいいし、自分もやりやすいんです。
 気仙沼ニッティングも「被災地支援」とか言われると、「うーん?」って。うちはただの気仙沼の零細企業ですから。むしろ、気仙沼の会社を並べると、その末席にちょこんといる感じです。新しいし、小さいから。

— 「ほぼ日」をはじめとしてメディアで目にすることが多いので「気仙沼ニッティング」というとすごく注目度が高い企業のように感じるのですが、地元でそこまで存在感があるわけではない、と。

御手洗 そうなんですよ。年代にもよるんですけど、気仙沼は水産業が盛んなので、保冷庫や工場で会社の頭数を数えるようなところがあって。保冷庫が大きいと「大きい会社だね!」と存在感を持つ。うち、保冷庫も工場もないですから(笑)。

— さすが港町! たくさん魚が入るのが偉い(笑)。

御手洗 気仙沼ニッティングって、これまでの気仙沼にはあまりなかったタイプの会社なので、特に水産業の人たちには直感的に理解しにくいんだと思います。始めて3年以上経った今でも、けっこう仲いい人に「で、たまちゃんところ、工場はどこなの?」とか聞かれますもん(笑)。

苗字がかぶりまくる、大きな大学くらいの町

— 編み手さんが、それぞれ手編みしてるから工場はないのに(笑)。

御手洗 そうそう。「みんな家で編んでるの!」みたいな(笑)。

— むしろ震災のすぐあとで、工場がなくても始められる事業はなにか、ということで編み物が選ばれたんですもんね。

御手洗 そうです。あと、工場がないわりに、編み手さんがたくさんいる、ということも驚かれます。地方の街ではよくあることだと思うのですが、気仙沼も人手不足と言われていて。そんな中で、うちは新しい会社だけど30人以上編み手さんがいるから「なんでたまちゃんのとこ、そんなにいるんだべ」と言われるんです。それはやっぱり、うちの仕事が家でできるからなんですよね。気仙沼では、子育てや介護があって家を離れられない人ができる仕事が、他にほとんどないから、編み手の仕事をやりたいって人が多い。

— フレキシブルな働き方が認められれば、もっと働きたい人はいると。そういうもともと地元にある企業さんとの付き合いって、どうやってつくっていったんですか?

御手洗 付き合いをつくるというような、そんな大仰なことでもなくて。小さな町なので、暮らしていたら普通にいろいろな人と会うんですよ。気仙沼市は、人口が約6万7千人なんですよね。町で知ってる人に会う頻度が、大きな大学のキャンパスくらい。イメージで、早稲田大学ってこんな感じかなって思ってます。

— 早稲田大学の学生数、調べたら学部生で4万4千人、大学院生で9千人とありますね。

御手洗 でしょう。気仙沼では家にいてあんまり出歩かないおじいちゃんおばあちゃんとかもいるだろうから、外を歩いている人の数は6万人もいないんじゃないかなぁ。

— まさに同じくらい。

御手洗 お昼に事務所からラーメン屋に移動するくらいの短い間でも、だいたい誰か知り合いに会います。だからそこに住んでいると、社長さん同士は当然よく知る仲になるんです。「あ、アキヒコさんだ」「マサキさんだ」みたいな。

— 下の名前で呼び合うんですか?

御手洗 ああ、気仙沼って苗字の数が少ないんですよ。うちの編み手さんは30人ちょっとですが、名簿をつくると「小野寺」が6人並んだりします。小野寺、斉藤、村上は多いですね。

— だから下の名前で認識しあうと。

御手洗 「小野寺コーポレーション」という会社さんのことを、「コーポレーションさん」って呼ぶんですよ。私は最初、「株式会社さん、って呼んでるみたいで変だなあ」と思っていました。でもだんだん、「小野寺◯◯」って会社がすごく多いから、むしろコーポレーションにアイデンティティがあるんだ……! って気づいたんです(笑)。

— コーポレーションより「小野寺」のほうが気仙沼では一般的だった、と(笑)。


つづく

聞き手・構成:崎谷実穂

震災後の気仙沼で編み物会社を起業。編み物で「世界のKESENNUMA」を目指し、100年続く会社をつくる奮闘記。

この連載について

大切に思える人の範囲—気仙沼ニッティング・御手洗瑞子インタビュー

御手洗瑞子

マッキンゼーのコンサルタントからブータンの首相フェローに転身。その後、2012年に震災後の宮城県・気仙沼市で編み物の事業を起ち上げた、御手洗瑞子さん。「気仙沼ニッティング」の奮闘の軌跡を綴った『気仙沼ニッティング物語〜いいものを編む会...もっと読む

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kekekeity |大切に思える人の範囲――気仙沼ニッティング・御手洗瑞子インタビュー|御手洗瑞子|cakes(ケイクス) 親戚ができる感じかー そうだよなー素敵だなあ。 https://t.co/e1IbboGADT 約2年前 replyretweetfavorite

Kloutter 高いけど、満足度も高いから着てて嬉しくなるよ。 約2年前 replyretweetfavorite

ma_ne_2 憧れの会社です。 約5年前 replyretweetfavorite

pommeblanc グローバルな影響と、 約5年前 replyretweetfavorite