英雄の書

神はあなたのなかにいる。脳科学が解明した「人生の切り開き方」

あなたの人生は、あなたを主人公にした物語。神はあなたの頭のなかにいる。気鋭の人工知能科学者が、脳科学を元に解明した「人生を切り開く方法」を一冊の本にまとめました。その名も『英雄の書』。発売を記念して、著者の黒川伊保子さんにインタビューを行いました。なぜ黒川さんはこの本を書いたのか、そしてあなたが「英雄」としていくための、神様(脳)とどう向き合えばいいのか。必見のインタビューを前後編でお届けします。

「ヒーローの時代」が到来することは感性トレンドでわかっている

— まずはじめにお伺いしたいのですが、人工知能研究者の黒川さんがなぜこのような「生き方」をテーマにいた本を書かれたのでしょうか?

黒川伊保子(以下、黒川) 私は人工知能以外にも感性トレンドも分析したんですが、2013年から「ヒーロー」の時代に入ったんです。それは前から予測されていて、その時代に入ったらすぐ、『英雄の書』というタイトルの本を出そうと、ずっと思っていたんです。


英雄の書(ポプラ社)

— 感性トレンドとはなんですか?

黒川 脳は電気回路なので、意外と精緻な生理的な周期性を持っています。それは感性やトレンドも同じで、56年を1周期として一巡りします。14年かけて0からプラスのピークまでゆるやかにあがり、次の14年でまた0に戻って、さらに14年かけてマイナスのピークまで下がり、最後の14年で0に戻る。これが気持ちよさの波=感性やトレンドの波となります。 実は2006年にも「気品」の時代に入る とわかっていて、「気品」や「品格」のタイトルで本を出したかったのに出遅れた、という苦い経験があったんです(笑)。だからタイトルだけ決めて、7年をかけて英雄に必要なものについてまとめていったんです。

— その波を見れば世の中のトレンドがわかってしまうんですか……?

黒川 そうですね。その波が一番高くなるときがアナログのトップで複雑性の極みとなり、デザインなど世の中のトレンドや感性などすべてが曲線的になります。逆に、一番低くなるときがデジタルのトップで単純性の極みとなり、逆に直線的になるのです。

— 例えば、具体的にはどういった形で反映されるんでしょうか?

黒川 1985年がデジタル感性の極みだったんですね。あのころの車のデザインは非常に角張って、横長の直線を強調しています。ファッションも肩パッドが入った無地のスーツが流行した。でも近年、車は流線的ですし、女性は柄物や曲線的なファッションを好み、つけまつげもブームになった。 でも、2013年のアナログのピークを過ぎ、つけまつげの売り上げは落ち始め、直線的なアイラインの時代に入っています。

とがったものが気持ちよくなりつつある2015年

— なるほど。まさに「時代や流行は巡る」というのがよくわかります。

黒川 ただ、今の若い人たちは空気を読むことが一番大事だと思っていて、付和雷同で流されやすく、SNSにベッタリな人が多い。スマホのような新しい機器を使っていても、感性がアナログなんです。でも、そうやってアナログ気分にひたっていたら、絶対にヒーローになれません。そこでどうすればいいのかをまとめたのがこの本です。

— 若い人たちに向けてのエールというのをかなり意識して書かれていますよね。

黒川 でも若い人だけでなく、デジタルのピークの1985年以前に大人だった50代以降の人たちにも、この本を読んでもらいたいんです。その人たちには、当時の気持ちや時代の機運を思い出して、自分の経験を交えて若い人たちに伝えてほしいなと思っています。

— 話し言葉で書かれているので、若い人たちを意識されているのかと思いました。とてもわかりやすく理解できました。

黒川 私は本を書くとき、具体的に「この人のために書こう!」と対象を決めているんです。今回は、30代の知り合いの男性に向けて書いたんですが、結果的にどんな人にも届くようになったと思います。

上司に言われて気楽に始めたAI(人工知能)研究

— そもそも、なぜ黒川さんは人工知能研究を始められたんですか?

黒川 大学で専攻した素粒子研究では就職先がなく、普通に就職しようと富士通の子会社に入社 したんです。でも、当時の日本はAI(人工知能)という言葉すら浸透しておらず、自分から希望したわけではありません。ちなみに私が入社した1983年は、 のちに日本のAI元年と言われ、通産省が1000億円もかけてAIを研究する新世代コンピューター開発機構(通称アイコット)を10年計画で立ち上げた翌年にあたるんですよ。

— まさにAI黎明期ですね。

黒川 AI研究は1960年代から軍隊を持つ国が無人兵器の開発のために始めたもので、1980年代初頭に「21世紀はAIの世紀になる」と予想されて、日本もようやく研究を始めたわけです。でも、当然国内には研究者がいないので、国産コンピューターメーカー数社に研究者を出すよう通達があって、私が選ばれたんです。

— 入社早々に新プロジェクトに指名されるなんて、大抜擢ですね。

黒川 いえ、そうではなくて、私が選ばれた一番の理由は、部で一番の落ちこぼれだったから。直属の女性課長も「AI? そんな訳のわからない研究に、将来がある男性社員は出せないわ。できない女の子から連れてって」と言っていましたから(笑)。

— 今と比べても随分保守的な時代ですね。

黒川 あの時代はそれが普通だったし、逆にAIなんて21世紀の話だから~、と気楽に考えていました。当時コンピューター業界は社会インフラを作るのにすごく忙しく、しかも社会インフラは10年といった長いスパンで取りかからないといけなかった。でも、あの頃は女性が結婚や出産で退社する人が多かったから、そういう仕事は任せられなかったという会社の方針もわかるし、私自身もそんな責任の重い仕事よりAIでよかったと思いましたね。 研究を通して、ネガティブな回路に信号がいきやすいことを発見!

— そんなAI研究が、『英雄の書』にどのように反映されていくのでしょうか?

黒川 最初に手がけたのが「意思決定システム」だったんですね。人間がどう意思を決定するかをシステムでシミュレーション し、似たシステムを作ってみるんです。次に、人間のニューロン(脳細胞)によく似たネットワークのニューロチップを作り、それをロボットに乗せて色々な実験をしました。その研究成果として、泥棒と刑事の小さなロボットを迷路の中で追いかけっこさせた実験は面白かったですね。

— 泥棒と刑事に学習させていくわけですね。

黒川 そう。泥棒は逃げながらつかまり、つかまったことに対して学習して、逃げることをどんどん覚えていく。警察も同様に、さまざまな学習をしてつかまえることを覚えていきます。搭載されているニューロコンピューターは、ある入力に対して脳細胞型の演算をして出力するんですが、構造も学習も一番単純な最初のうちは、逃げた泥棒のロボットがT字路にぶつかると、3分の1の確率で来た道を戻ってきちゃうんです。

— ルートとしては来た道も3分の1のうちの1つですもんね。

黒川 そこで、後ろから来るものに対する恐怖心のようなものを、回路の中に持たせないといけないとわかった。そこで、恐怖をフィードバックさせる回路を少し太くして作り、人間の脳をシミュレーションしていくわけです。ただ、恐怖心は確かに大切ですが、ネガティブな回路が強すぎると、その回路に信号がいきやすくなってしまって、結果的にネガティブなことが起きてしまうんです。それは人間の脳も一緒で、私は研究を通して 人間の脳を見つめていたんです。

— 人間もネガティブな感情にとらわれやすいんですね。

黒川 これは小堺一機さんから聞いたんですが、長嶋茂雄さんが天覧試合でホームランを打ったとき、「天覧試合でホームランをかっ飛ばしたらかっこいいだろう」と思いながらバッターボックスに入ったんですって。でも、だからホームランを打つ回路に信号がブワッと流れて、打てたんですよ。人間の脳はネガティブなことを考えると、シミュレーションで一度ネガティブな回路に信号が流れます。すると、その回路に信号が流れやすくなり、ネガティブなことが起こりやすくなる。もし「天覧試合で三振したらかっこわるい」と思っていたら、違った結果になっていたはずです。

失敗は成功の元! 失敗が直感の回路を太くする

— できないかもと「思う」だけで、そうなる確率が高くなるんですか?

黒川 そうです。だからネガティブな回路に、一度でも信号は流しちゃいけない。もし、「どうせ私が言ったって無駄だ……」と思いながら話をしたら、相手は話を聞く気持ちになりません。それは、脳が「どうせ聞いてくれない」というネガティブな回路に信号を流したがり、 そういう話し方になってしまうから。つまり、ポジティブな回路にどれだけとっさに信号を流せるかが重要なんです。ネガティブな回路は危険回避のために必要 不可欠だけれど、ネガティブに偏ると人間は立ちすくみ、前に進めなくなってしまいます。

— でも、失敗をしたくないという人も多い気がするんですが……。

黒川 それ自体は大きく間違っていません。だからこそ失敗はするべきなんです。失敗をしないと脳に直感の回路はできません。コンピューターに学習をさせるときも、失敗を重ねさせることが重要になります。成功例をいくら重ねても、例外処理が山のようにあり、正解に直接たどりつく回路は生まれないんです。まず失敗をさせて、回路をシンプルにした上で成功例を送り込まないと、学習はできない。

— まさに「失敗は成功の元」ということなんですね。

黒川 失敗をしない脳は何もできない脳なんです。子どもにガラスのコップを使わせると感性が鋭くなるという教育論がありますが、それはその通りで、取り返しがつかないことが感性を鋭くし、直感の回路を作ります。落としても割れないプラスティックのコップや、倒してもこぼれないコップなんかを使っていたら、直感なんて働かない脳になってしまう。そういったことをAIは私に教えてくれました。これらの話が私が『英雄の書』を書く基になっているんです。

英雄の書

黒川 伊保子
ポプラ社
2015-09-02

この連載について

英雄の書

黒川伊保子

AI(人工知能)の研究を通して長年、人々の感性や嗜好・マーケットを分析してきた、脳科学者・黒川伊保子氏が語る、これから必要とされる人物像、「英雄」。なぜこれから「英雄」が必要とされるのか、「人生という冒険」の中で「英雄」になるために必...もっと読む

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Singulith >「恐怖をフィードバックさせる回路を少し太くして作り、人間の脳をシミュレーションしていくわけです。ただ、恐怖心は確かに大切ですが、ネガティブな回路が強すぎると、その回路に信号がいきやすくなってしまって、結果的にネガティブなことが」 https://t.co/1FxSulCqvB 1年以上前 replyretweetfavorite

45atPC |英雄の書|黒川伊保子|cakes(ケイクス) 3年弱前 replyretweetfavorite

houkipino 子どもにガラスのコップを使わせると感性が鋭くなるという教育論がありますが、それはその通りで、取り返しがつかないことが感性を鋭くし、直感の 3年弱前 replyretweetfavorite

501now AI研究者が語る、失敗体験の必要性↓ 3年弱前 replyretweetfavorite