chapter6-7 星に願いを

直子を強引にディナーに誘ったが、ダメだった。しかし、今夜、実家で夕飯を食べた後に、また、夜に会おうと言う。僕の経験から言うと、こんなふうに別れた場合、二度と会えないことがとても多い。僕は期待せずに待つことにした……。

 僕は反対側のバスに乗り、予約しておいたホテルの近くまで来た。

 途中でコンビニに寄って、安いワインを買った。

 女の子にもっと長くいっしょにいたいとすがってしまうなんて、恋愛工学ではやってはいけない典型だった。

 過去の経験からいうと、こんなふうに女の子と途中で別れた場合、また会える確率はゼロに近い。いっしょにいるときは、まるでずっと探していた理想の異性に出会ったかのように仲良くなっていたとしても、だ。こういう場合は、タイムコンストレイントメソッドなどでむしろこちらから別れるべきだったし、もっとクールに振る舞うべきだったのだ。

 僕の恋愛工学のスキルはすっかり錆びついてしまっていた。

 ホテルにチェックインして、荷持を置き、僕は近くの小さな食堂に行くことにした。

 伊豆の海の幸が乗った海鮮丼をかきこんだ。

 それから、あまり期待せずに、直子には僕のホテルの住所と電話番号を送っておいた。

 ひとり部屋に戻り、シャワーを浴びる。

 髪を乾かしながら、僕はノートPCを取り出し、しばらくやめていた就職活動を再開することにした。

 直子とは、もう二度と会えないかもしれないけど、今日いっしょに過ごせた時間で、僕はずいぶんとエネルギーをもらった気がした。

 履歴書をいくつかの事務所に電子メールで送った。

 携帯には直子からの返事はなかった。

 明日の宿を見つけるためにネットサーフィンをはじめた。土肥温泉に行こうか、それとも修善寺に行こうか。直子と連絡が付かなくなったら、もう東京に帰ってしまおうか。それも悪くない。

 僕はひとりでワインを開けて、飲みはじめた。

(PM21:33 直子)  [ようやく家族との夕飯が終わったよ。]

 僕は自分の目を疑った。直子から返事が来たのだ。

(PM21:34 直子)  [でも、こんなに遅くなっちゃったから、また、今度にしない?]

 ここは強引に押し切る場面だ!

(PM21:37 わたなべ)[今夜会いたい。]

(PM21:38 直子)  [いまから行くと、そっちに着くのは10時半ぐらいになっちゃうよ。]

(PM21:39 わたなべ)[僕はずっと待ってたんだよ。約束はちゃんと守ってよ。]

(PM21:40 直子)  [そうだけど。]

(PM21:40 わたなべ)[アイスクリームをおごる約束だって忘れたの? 今日はいっしょに星空を見るのを、僕はずっと楽しみにしてたんだから。]

(PM21:45 直子)  [わかった。じゃあ、行くね。ちょっと遅くなるよ。]

(PM21:45 わたなべ)[いいよ。ちゃんと待ってるから。]

(PM21:46 直子)  [<スタンプ>]

 僕は落ちつかず、ロビーまで出てきてしまった。

 携帯を何度もチェックする。

 まだ連絡が来ない。

 そのとき、車が一台玄関の前に止まった。

 しかし、車から出てきたのは、別の観光客だった。

 時計を見ると、もう11時を過ぎていた。

 やっぱり、来ないのか……。

 そう思ったとき、ヘッドライトの明かりがロビーの中を照らした。

(PM23:21 直子)  [ホテルの前に着いたよ。]

 僕の心臓は高鳴った。

(PM23:22 わたなべ)[すぐ行く。]

 車の中に直子がいた。

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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