chapter6-6 夕陽のなかで

カフェではお互いにいろんなことを話した。そして、僕たちは夕日を見に行くことになった。少しずつ距離が近づいていくが、一緒にいられる時間はあと1時間……。

 西伊豆にはいくつも夕日の名所があり、そのうちのひとつにバスで行くことにした。

 修善寺行きのバスに乗れば15分ぐらいのところだ。

 僕たちは、後ろのほうのふたりがけの席に座った。

「この辺はドライブするとすごく気持ちよさそうだね」

「車は運転できるの?」

「実家に帰るとよく運転するわよ。わたなべ君は?」

「僕の免許はゴールドだよ。無事故・無違反」

「それって、ペーパードライバーってこと?」

「まあ、そういう言い方もあるね」

「ハハハ」と直子が笑った。「今度、私が運転してどこかに連れてってあげる。私、けっこう運転うまいんだから」

「それは楽しみだな。西伊豆には、富士山が見える有名な岬がいくつもあるし、ドライブはとても気持ちよさそうだね」

 僕はとなりに座っている直子の手を握った。

 彼女はまったく抵抗しなかった。

 それから僕たちはずっと手を握ったままだった。

「不思議だな」と言って僕は直子の顔を見た。「きれいな女の子とふたりで話していると、いつもなら僕はなんとか口説こうとかいろいろ思ってしまうんだけど、直子とこうやって会話してると、なんだかとても楽しくて、面白い男友だちと話してるみたいな気分になるよ」

「なにそれ?」と直子はすこし怒って言った。「私に女としての魅力を感じてないってこと?」

「まあ、そういうわけでもないんだけどさ」

「ふんだ。どうせ私は、男友だちみたいですよ」

 直子はふてくされた顔をしている。

 素知らぬ顔で話しながら、僕はつないでいる手の指と指をこすり合わせた。

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ぼくは愛を証明しようと思う。

藤沢数希

恋人に捨てられ、気になる女性には見向きもされず、非モテな人生をおくる主人公のわたなべ。ある日、恋愛工学と出会い、彼の人生は大きく動き出す……。 ファイナンス、経済学、エネルギー政策に関する著作をもち、リスク・マネジ...もっと読む

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