新しい人生を始めたかった彼は、「殺されたほうがラク」と言って微笑んだ 【若者の貧困・後編】

20代にして日本の貧困問題の解決を目指すNPO法人「もやい」理事長を務める大西連さんが、日本に蔓延する見えない貧困の実態に迫った著書『すぐそばにある「貧困」』。本書でも描かれる、22歳で貧困におちいってしまった青年の話を紹介する連載、待望の後編です。果たして扶養照会は止められたのでしょうか。ワタナベくんは無事、新しい人生をはじめられるのでしょうか。貧困問題の難しさを痛感させられる、衝撃の結末です。

相談、再び

P区役所。ワタナベくんと二人、特に会話もなくイスに座って結果を待つ。

しばらくしてガラガラッとドアが開き、相談係のUさんが戻ってきた。


結局、扶養照会を止めるかどうかは協議のうえ決めることになり、生活保護の申請自体は受けつけられることになった。一時的にネットカフェで寝泊まりする費用も借りられた。

翌日に再度Uさんと話し合いが持たれることになったが、それはワタナベくん一人で対応してもらうことになった。あとはなんとかなるだろう。こうして、その日は解散した。


それから何日か経ったかが、P区からもワタナベくんからも特に連絡もこなかったので、この件はもうひと段落したのだと思っていた。

でも、僕の想像もつかないところで、事態は急変していたのだった。

「ワタナベです。ちょっと相談したいことがありまして」


くちびるのアザと、左腕に刻まれたタバコの痕

P区に生活保護の申請に行ってから2週間が経っていた。東日本大震災の被災地支援のために岩手県に来ていた僕のもとに、急にワタナベくんから電話がかかってきた。

話を聞けば、どうやらP区からご家族に扶養照会がいくことになったそうで、結局、宮城の実家に帰ることになったという。彼の実家は仙台駅からすぐだった。

僕も仙台経由で帰京するつもりだったので、彼と駅前の喫茶店で落ち合うことにした。

「ワタナベくん、お久しぶりです。まさか仙台に帰っていたなんて。聞いてなかったから驚きましたよ。って……そのくちびるのアザどうしたの?」

よく見ると、彼のくちびるは内出血のせいか、薄紫色に変色している。

心なしか顔色も悪く、表情も能面のように硬い。

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すぐそばにある「貧困」

大西連

「僕たちと貧困を隔てる壁は、限りなく薄く、もろく、そして見えづらくなっています」 20代にして日本の貧困問題の解決を目指すNPO法人「もやい」理事長を務める大西連さんが、日本に蔓延する見えない貧困の実態に迫ります。貧困の背景に...もっと読む

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コメント

kiq “大西連” / 他1コメント https://t.co/3SZmoMhQ9v 4年以上前 replyretweetfavorite

kiq “大西連” / 他1コメント https://t.co/3SZmoMhQ9v 4年以上前 replyretweetfavorite

sir43k 虐待する親に扶養照会するとは。ひどい。 4年以上前 replyretweetfavorite

mofumofu_neko 扶養照会がされた事による悲劇。 4年以上前 replyretweetfavorite