電気サーカス 第47回

テレホーダイでネット接続していた時代。『テキストサイト』をはじめた“僕”は、ネットで知り合った友人たちと共同生活を送っている。この共同生活に、オフ会で知り合った女子中学生の真赤が参加。そして、働かない日々が一ヵ月以上続き……。

 真赤がやって来て一週間ほど経った頃から、僕と彼女は同じ部屋で寝起きするようになっている。
 一人でも狭苦しい四畳の部屋に、二人で暮らすというのは正気の沙汰ではないと人は思うかもしれぬが、まあ確かにそれはその通り。敷き詰められた万年床の上で、二人が横になれば寝返りも打てず、片方が座れば、もう片方が座る場所も自然と決まってしまう。
 それほどの窮屈な空間に、しかも僕は無職、彼女も高校入学までは自由の身であるから、人に遊びにでも誘われなければ食事の他には外出の用もなく、ほぼ二十四時間閉じこもっている。それぞれのPCで、インターネットを閲覧している。しかし、それで退屈ということもない。
 まだここに来てからそれほどの時間は経っていないはずだけれども、ひどく長い時間が過ぎたような気がする。とにかく毎日なにかしらあって、一日一日が濃厚なのだ。
 最初に驚かされたのは、彼女が来て三日目のことだ。まだ別々の部屋で暮らしていた頃の話である。前日はいつものように僕とタミさんと真赤の三人で食事をして、そしていつものように眠りについた。だから、それを予期させるような出来事など何一つなかった。
 僕はその朝目が覚めると、冷蔵庫に飲み物を取りに行った。この家ではほとんど自室の戸を閉めるという習慣がなかったので、タミさんの部屋も、真赤の部屋も開け放したままになっている。だから見るつもりがなくとも部屋の有様が把握出来てしまうのだが、そこで僕は気がついた。真赤が部屋にいない。布団がもぬけの殻なのである。
 どこへ行ったのだろう? コンビニにでも行ったのだろうか。何か言付けをされていないか、タミさんの部屋を覗くと、彼は低いいびきをかいている。あの様子だと何も知りはしないだろう。念のため僕は真赤の携帯に電話をかけて、そうして異状を知った。
「あ、水屋口さん……」
 ふわふわとした声で真赤は電話に出る。僕はどこで何をしているのかと訊ねたが、全く要領を得ない。ぶつぶつとわけのわからぬことを言って一方的に切られてしまう。
 やはり共同生活がいやになって、出て行こうとしているのだろうか? そうだとしたら僕には止めることは出来ないが、しかしそういう様子でもない。明らかにその態度は普段とは違って、まるで夢の中にでもいるような、幻覚剤でも大量に飲んだような話し方だった。
 すぐにもう一度電話をかけ直す。会話を拒否するつもりなら電源を落としているかもしれないと、そう危惧したが無事コール音がなり、彼女はそれに出た。
 どうやら僕と言葉のやり取りをしようという気はあるようだと、ほっとしながらもう一度問いただす。すると彼女は、どうも、頭がおかしくなったので外を歩いていると、そんな意味のうわごとを繰り返すのである。

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電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

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