ネットカフェで暮らす30代「ハケンさん」に待ち受けている未来

20代にして日本の貧困問題の解決を目指すNPO法人「もやい」理事長を務める大西連さんが、日本に蔓延する見えない貧困の実態に迫った著書『すぐそばにある「貧困」』。今回はその中から一つのエピソードを紹介します。「彼」は一見普通の好青年。でも、呼び名は「ハケンさん」。職場とネットカフェを往復する日々を送っています。貧困にあえぐ彼と私たちの間にある違いとは? 私たちのすぐそばにある貧困の恐怖に迫ります。

職場とネットカフェを往復する「彼」の日常

こんなアリジゴクみたいな生活、続けたい人はいないですよ。生きているのか死んでいるのか、自分でもわからなくなる時があるんです。このまま5年後、10年後、自分はいったいどうなっているんだろうって……」

彼はそう言うと大きなため息をついた。2012年10月。時刻は22時。新宿西口にあるマクドナルドは、飲み会後の大学生や深夜バスを待つ若者でにぎわっている。

パリッとアイロンをかけたシャツにさっぱりとした髪型。黒のスーツに身を包んだ30代前半の彼は、一見したら住まいを持たず、ネットカフェで寝起きしているような人には思えない。僕のほうがむしろみすぼらしく見える。

「5年前に愛知の工場の仕事の契約が切れて、こっちに戻ってきたんです。いまどき正社員の仕事なんて見つからないですよね。この間、仕事は何回か変わったけど、生活は何も変わらない。ネットカフェに泊まって、スーツを着て、出勤する。その繰り返しです。仕事は基本的にデータ入力。事務の補助みたいなやつですね。決められた仕事を決められた時間内にこなす。慣れたもんですよ。でもこんな仕事、それこそサルでもできます。自動でデータを読み取れるソフトかなんかができたら一発で失業でしょうね」

彼の乾いた笑い声は、隣の学生たちのはしゃぎ声にすぐにかき消された。

目の前のコーヒーを一口すする。冷めてしまったせいか、やけに苦く感じる。

「ただ生きているだけ」のハケンさんの未来

「生きていく希望が何もないんです。いまの仕事をしていれば生きていける。一応、収入があるから。アパートを借りるまでお金を貯めるのは大変だけど、とりあえず生きていける。そう、とりあえずは。でもほんと、生きているだけなんですよ。遊びに行ったり、それこそ結婚したり、家庭を持ったり……。昔は彼女もいたんです、これでも。でも、そういうのはもう、無理です。ネットカフェと職場を往復する毎日。今日だって、人と話をするのひさしぶりなんですよ。もちろん、職場でも会話はありますよ。でも、僕が職場でなんて呼ばれていると思います? ハケンさん、ですよ」

急に押し黙ってしまった。何か、こみあげてくるものがあるのだろうか。

僕は、ただ黙って次の言葉を待った。金属のスツールの冷たい感触が太腿に伝わってくる。

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すぐそばにある「貧困」

大西連

「僕たちと貧困を隔てる壁は、限りなく薄く、もろく、そして見えづらくなっています」 20代にして日本の貧困問題の解決を目指すNPO法人「もやい」理事長を務める大西連さんが、日本に蔓延する見えない貧困の実態に迫ります。貧困の背景に...もっと読む

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コメント

toacareerdesign |すぐそばにある「貧困 https://t.co/AbDshUr5oB 無料期間のうちになるべく読み漁っておくぜ!ゼハハハww 2年以上前 replyretweetfavorite

yz_s 『最貧困女子』を読んだ身には「なんでそんなところにいるんだ」ってなっちゃうなぁ。 Browsing: 2年以上前 replyretweetfavorite

kartofeli "生きていく希望が何もないんです。いまの仕事をしていれば生きていける。一応、収入があるから。アパートを借りるまでお金を貯めるのは大変だけど、とりあえず生きていける。そう、とりあえずは。でもほんと、生きているだけなんですよ" https://t.co/erI6bjE3Xg 2年以上前 replyretweetfavorite

pori313 ネカフェの生活を「アリジゴク」と言いつつ、「今はこれでいい」と自分に言い聞かせるように繰り返しているのが印象的。> 2年以上前 replyretweetfavorite