電気サーカス 第46回

テレホーダイでネット接続していた時代。『テキストサイト』をはじめた“僕”は、ネットで知り合った友人たちと共同生活を送っている。この共同生活に、オフ会で知り合った女子中学生の真赤が参加。その夜、彼女と同居人のタミさんが……。

   三 空中ブランコ

 もう一ヶ月以上働いていないのであって、社会的かつ生産的な活動というやつをなんにもしていないのであって、これで、いいの? いいの? 僕は本当に生きていて、いいの? とか思ったり思わなかったり、定かでない今日この頃なんですが、さあて、実際生きるべきか死ぬべきか、どっちでしょうかね? などとシェイクスピアじみた質問形式をとってた僕は、何もわかりはしないのです。わかりたくもないのです。だって、わかるのが恐ろしい恐ろしい恐ろしいので、わかりそうになったら酒を飲むことにしています。朝でも昼でも、目を開いたその時に酒を飲みます。僕はとにかく酒を飲みます。酒酒酒。酒だ酒をよこせ。いえ、よこしてください。明日も酒、明後日も酒、死ぬまで踊り続けますよアハハ、って別に可笑しくはありません。ちっとも可笑しくなんかないんだ。なんでかっていうとそれは僕自身のことなので。他でもない僕自身のことなので。そら僕だって、僕自身のことだろうが他の誰かのことだろうが、わけへだてなく、差別なく、えこひいきなく、マザーテレサのような平等・博愛の精神で一様に笑い飛ばしてやりたいって気持ちはあるのですが、でもそれをしたらどうにもならんと思うのですよ。だって僕は僕なのだから。僕はもうちょっと、自分のことに関して、真剣になったほうがよいと思うのです。笑い飛ばすよりも、深刻に、思い悩んだほうがよいのです。どうも、そのほうが真っ当な人間反応のようなので。それに僕が僕のために真剣にならなければ、誰も僕のために真剣になる人なんかいないじゃないですか。それはあまりにも、寂しいじゃないですか。だから、ほら、僕は本気だと、宣言してゆくのです。まったく、なんて、『僕』という文字の多い文章だろう!
 というわけで、もう昨日のことになってしまったんですが、つうか、一昨日だったかな? それが一昨日とか昨日とか今日とか、もうわからないな。というのは、夜九時に起きて、翌日の昼過ぎに寝て、そして二時間も寝たら起きるって、そんな生活してたら、もはや夜零時に日付変更、という全世界的な事実と精神がうまく馴染めませんので。だから、昨日とか一昨日とか言われても、ぱっと直感的に理解できないのです。で、とにかく、その日目覚めて朝一番、というか夜一番、時間にして二十一時半ごろ、ラーメン屋に行きました。僕はラーメン屋に行きました。同居人の女を伴って。そうです、真赤です。ご存じですか? アア、それなら良かった。
 隣で眠っているそいつをたたき起こして、テクテクと歩行してゆくと歩き始めたばかりなのに、暗い空から白い雪がぽろぽろこぼれるように降りはじめる。嗚呼! もうそんな季節ではない筈なのにまだ雪が降るのか。傘を持たずに家を出たものだから僕はひどく寒かったんですが、でも引っ返して傘取りに戻るなんて、雪に負けたようでいかにも業腹なので、そして面倒だったので、そのまま雪に降られながら歩きました。寒いのも濡れるのも、厭なものはなんだって、どうでもいいやって諦めてしまえば、そのうち不快を通り越して良い気分になるって……わかるかなあ。僕はそういうのが案外得意なんです。寒くて顔の皮膚とかこわばって、すると不思議とワクワクしてきて。一方同居人は辛そうにしていましたが。もうちょっと厚着すりゃあいいんだよ。馬鹿だなあ。とにかく、そんな感じで歩き続け、いよいよ寒さに凍えきってしまうころ、ようやく僕らはラーメン屋についたのでした。

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電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

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