その夜、私は、とても疲れていた。
とある女性誌から依頼された原稿のテーマは、“セックスレスの解消法”。セックス頻度と満足度が世界最低という日本においては、定番のテーマだ。
普段からボディタッチをする、旅行にいく、1度はきちんと話し合う……etc. 定型の答えならいくらでも思いつくけれど、何をどうしても、しない時はしない。女がその気になるほど、男がその気になれなくなることは多々あるし、その逆も然り。だいたい、性的な欲求不満はふくらむほど、湿り気となって顔や態度に表れるから、ますます異性を遠ざけるんだ。
ああ、こっちが腐ってきた。お酒が飲みたい。でも、飲んだら一瞬アガるけど、翌朝はサガるしなぁ。……そうだ! あの娘に会おう。私はiPhoneをプッシュした。
あ、もしもしar(アール)?
「YES! WE ARE 雌ガール!」
私の誘いをふたつ返事で快諾したアールは、今日もおフェロなメイクで登場だ。
ADDICTIONの鮮やかな赤のチークポリッシュをたっぷりのせた頬に、ローラ・メルシエで仕上げた潤んだ素肌、唇はさくらんぼみたいに赤いグロスがぽんっとおいてある。
「まずは、コールドプレスジュースでお腹を整えてから、お肉を食べに行こうよ。
私、400gはイケるはず! OH! Yes!」
アールはいつもハッピーで、会うだけで元気をくれる「雌ガール」なのだ。
“雌ガール”とMr.Childrenは同じ矛盾を秘めている?
みなさんついてきますか? とくにドン引きしていそうな40代以降の男性陣。あまりに文化圏が違ったら、無理せずソッと閉じてくださいね。
気を取り直して、“おフェロ”と“雌ガール”について解説しておきたい。いずれも、20代向けのビューティー&ファッション誌『ar(アール)』の生み出した造語である。
おフェロ:「おしゃれ」で「フェロモン」がたっぷりにじみでているさま。火照ったような赤いチークやお風呂上りのような艶肌が特徴。健康的で透明感があり、リラックスしながらも相手を引き寄せる力を持つ。
雌ガール: 可愛いものが大好きな“ガール”な感性の奥に、野性の“雌”の本能も併せ持つ。ガールズマインドとオンナの欲望の両方に忠実で、欲張り上等な女性。
やや卑猥な語感の前者もさることながら、特筆すべきは、あの国民的バンドの名と同じ構造を持つ修羅のような造語“雌ガール”である。成熟したオンナだけど、女の子であることも降りたくない。つまり、大人の敬称であるミスターを名乗りながらも、チルドレンと言ってはばからない、あの稀代のバンドと同種の矛盾を秘めているのである。
ar用語辞典の「雌ガール」には、「対語:雄ボーイ」の横に、「類語:Mr.Children」と添えたい。
1995年、ヘアスタイルや美容情報を中心に、「美しいわたし新発見マガジン」として創刊。2012年末のリニューアル時、これらの造語を生みだした『ar』は、新たなキャラを覚醒させたのである。
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