先の二回の記事で、ケプラー宇宙望遠鏡は何百光年、何千光年も離れた宇宙の彼方に1000を超える惑星を発見し、ヒマワリのような形をしたStarshadeという人工衛星を使うことで近い将来にそれらの惑星に生命が存在することの間接的証拠をつかむことができるかもしれないこと書きました。
しかし実は、地球外生命は、もっともっと近く、僕たちの太陽系の内で見つかる可能性もあります。
2020年に打ち上げ予定の火星ローバーが生命の痕跡を探しにいくことは先の号外記事で書きました。しかし、太陽系で地球外生命が見つかる可能性がある星は火星だけではありません。
2012年、ハッブル宇宙望遠鏡は、木星の衛星エウロパの南極上空に水蒸気があることを発見しました。エウロパといえば、星全体が分厚い氷で覆われた極寒の世界です。そのどこから湯気なんかが沸いて出てきたのでしょう。エウロパに寄り道した宇宙人がラーメンでも食べていたのでしょうか。
実はエウロパ、表面を覆う分厚い氷の層の下に液体の海があるという説が有力視されています。水蒸気はラーメンの湯気ではなく、地下の海の水が、氷の割れ目を伝って、クジラの潮吹きのように吹き出てきたのではないか、というのが多くの科学者の予想です。実際、土星の衛星エンケラドスから潮が高さ数百キロにわたって噴き出している様子を、NASAの探査機カッシーニが撮影しています。これはエンケラドスの地下に液体の水が存在する動かぬ証拠になりました。
土星の衛星エンセラドスで見つかった「潮吹き」。Credit:NASA/JPL-Caltech
そしてエウロパやエンケラドスの地下の海こそ、地球外生命が見つかる可能性がもっとも高い場所のひとつなのです!
しかし木星や土星はハビタブル・ゾーンのはるか外側に位置します。エウロパも表面温度はマイナス160度の極寒の世界です。どうしてそんな場所で水が凍らずに存在できるのでしょうか?
鍵は木星の重力にあります。木星の重さは地球の318倍もあり、重力も強力です。木星はこの重力によって、まるでパン生地をこねるように、エウロパを「モミモミ」と揉んでいます。もちろんエウロパはパン生地みたいに柔らかくありませんから、目に見えてぐにゃぐにゃと変形することはありませんが、このモミモミの力、すこし硬い言葉を使うと潮汐力が、エウロパ内部に熱を発生させ、水を液体に保っていると考えられているのです。エンケラドスに地下の海が存在するのも、土星にモミモミされるからです。
その海に生き物がいるとしたら、どんな形をしているのでしょう。単純な微生物なのか、それともひょっとして魚のような高等動物もいるのか。スターウォーズマニアの僕としては、エピソード1に出てきたグンガンのような水中の文明がありやしないかと、つい妄想が膨らんでしまいます。
『宇宙兄弟』の5巻で、手島有利がエウロパの生命探査に参加するために、せっかく最終選考まで進んだ宇宙飛行士の選抜を辞退するシーンがあったのを覚えていらっしゃるでしょうか。あれは作り話ではありません。エウロパの生命探査という手島の夢は、現実にNASAで計画が進んでいるのです。
『宇宙兄弟』作中のJPLによるエウロパミッションは作品の設定であり、実在するものではありません。
現在、2020年代の打ち上げを目指して、エウロパ・クリッパーという名の探査機の開発がNASAジェット推進研究所で進められています。木星の周りを回りながらエウロパを上空から観測する探査機で、氷を透過するレーダーを備えており、地下の海がエウロパのどこに、どのくらいの深さで広がっているのかを調べる予定です。
さらに、もし本当に潮吹きがあったならば、潮を突っ切るようにエウロパ・クリッパーを飛ばして、水蒸気の中にどのような物質が含まれているかを質量分析器で直接調べることができます。いったい何が見つかるのでしょうか。もしかしたら生命の存在を示唆するような物質がみつかるかもしれません。あるいは豚骨や味噌の成分でもみつかれば一転してラーメン説が有力になるかもしれませんし、どんなスープのラーメンを宇宙人が好むのかも明らかになるでしょう。
エウロパ・クリッパーの想像図。Credit:NASA/JPL-Caltech
それにしても、どうしてNASAはここまで血眼になって地球外生命を探しているのでしょうか。その理由は、みなさんが「宇宙人はいるの?」と聞く理由ときっと同じです。