電気サーカス 第41回

テレホーダイでネット接続していた時代。『テキストサイト』をはじめた“僕”は、ネットで知り合った友人たちと共同生活を開始。バイトも辞め自由を謳歌していたが、受験のためにホテルに缶詰めになっている真赤から体調不良との連絡が……。

 それから一週間後、僕と真赤は原宿のマクドナルドの二階で小さなテーブルを挟んで向かい合っていた。
 無職の僕と登校拒否の彼女には曜日などあってないようなものだったけれど、その日はうっかり日曜日を選んでしまって、店内が混み合っている。
 場所柄のせいか、客は十代や二十代の若者ばかりだ。せっかくの休日、埼玉や、あるいはもっと遠くから、わざわざ足を伸ばして来た人も多いのだろうな。原宿と言えば、地方の少年少女のあこがれの地だもの。名高い竹下通りなんざ祭りの出店に毛が生えたようなくだらない店ばかり並んでいるし、最近は裏原宿がどうとか言ってスノッブな餓鬼どもが裏通りをありがたがっているが、それもおれには、いや失礼、僕にはちっともわからない。ともかく、彼らはそうしてショッピングやらを楽しんで、平日は母親にどやされながら目を覚まし、高校やら中学校やらに通っているのだろう。
 まったく、青春を謳歌してやがる。僕の場合も、これはこれで青春なのかもしれないが。あんまりにもしけたものだ。青春というのは、本来ならばもっときらきらとしたものじゃないんだろうか。
 嫉妬に似た敗北感を覚えつつ、僕は年の離れた自分たち二人の組み合わせが彼らの目にどう映っているのか、なんとなく気にしていた。
 真赤は初めて会ったときと同じコートを着て笑っている。僕は安物の白いムートンジャケットと、いつもの長いマフラーを身につけている。薄っぺらいデニムを穿いた下半身が屋内にも拘わらず寒かったが、目の前の真赤は素足にスニーカーを履いており、よくこんな格好で平気なものだと思う。
 彼女の飲み物はコーラだった。他に食べ物も頼めばいいと勧めたが、今日はこれだけでと断られた。今さっき栃木から帰ってきたばかりで、その電車のなかで、栃木での鬱憤を晴らすかのようにひたすら食べ続けていたらしい。一方僕はもとより食欲がなく、やはり紅茶だけを目の前に置いている。そして、ティーバッグから充分に味がしみ出すのを待っていた。どうしてマクドナルドの紅茶はこんなに貧乏くさいのだろう。
 顔を合わせるのは久しぶりだったが、毎日のようにその声を聞いていたので懐かしいという気はしなかった。
 熱は下がり、もうすっかり元気になったと上機嫌で言い張っているが、彼女が細くて色白なのは以前からのもので、動作がふにゃふにゃとしているのも本来のものだから、一見しただけでは体調が戻ったのかどうか判然としない。しかしまあ、本人が健康だと言うのなら、そうなのだろう。
「そんなに簡単に治るのなら、心配して損したよ。今にも死にそうだったじゃないか」
「ごめんなさい。なんだか悪いことしちゃったね。でもありがとう」
 悪びれもせずに真赤は笑う。
「まあいいけどさ。それで、結局、テストはどうだったの?」
「自己採点があってれば、よほどのことがなければ合格だと思う」
 そう答えたものの、彼女はその件に関してはさほど興味はなさそうで、
「それより、どうして『電気サーカス』を休止しちゃったの? 楽しみにしてたのに。帰ってきてネットを見たら更新がなかったからびっくりしちゃった」
 すぐに話題を変える。
「特に理由はないよ。なんとなく面倒になったってだけ。自分だってサイト休んでたじゃん」
「当たり前でしょ。更新できる環境がなかったんだもん」
「そうだけどさ」

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電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

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