「若者言葉」の罠
出口汪(以下、出口) 「若者言葉」って、よく問題になるよね。「ムカツク」とか「ウザイ」とか「ビミョー」とか。ゆいちゃんもたまに使ってないかい?
ゆい 先生、私はもう社会人です。まったく使わないわけじゃないけど、今はあまり使いません。でもまあ、高校生のときによく使ってましたけどね。「あのコ、ウザイよね」とか、「あの先生、超ムカツイちゃう」とかって。……あれ、大学生になっても使ってたかな。
出口 言葉には大きく分けて、「感情語」と「論理語」の二種類があるんだ。
今の「ムカツク」や「ウザイ」は感情語だ。感情語というのは、他者意識がない言葉で、赤ちゃんが泣くのも、感情語といってもいい。もっと言えば、犬や猫が鳴くのも、感情語といえる。お腹が空いたというのを訴えるために、泣いたり、鳴いたりするんだから、感情語だよね。
自分の不満や不快な気持ちをただ音にして表現して、それを誰かが察して、解決してくれるのを待つというのが感情語だ。そこには、他者意識は存在しない。赤ちゃんはいくら泣いても誰もミルクを与えてくれなければ、泣き寝入りしてしまう。若者は「ムカツク」「ウザイ」という感情語しか口に出さず、それが相手に伝わらず、不快さが解消されないと突然キレたり、引きこもってしまう。
ゆい 何だか、赤ちゃんと同じみたい。
出口 そう。この二つは、他者意識の欠如ということからいえば、まったく同じ次元なんだ。
前回、面接で自分のことをペラペラしゃべるだけの学生のことを話したけど、これも一緒かもしれない。相手がどう感じるかを考えずに、自分の優秀さをアピールするだけで、それが相手に評価されないとただ落ち込む。そこには、相手の立場を考えて、伝えるという「他者意識」はないよね。
ゆい 赤ちゃんと一緒だなんて、何だかショック。赤ちゃんのときから、進歩してないってこと?
出口 そんなことは言ってないよ。人間は社会的動物だから、赤ちゃんは大人が話すのを聞いて、言葉を覚えていく。ミルクをもらえるまで泣き続けるよりも、「まんま」「お腹空いた」と言った方が楽だからね。でも、それはやっぱり感情語なんだ。
ゆい では、先生、もう一つの論理語はどうすれば身につくんですか。