女オンチな女たち

我々はフェミニストなのか?—vol.1

「草食男子」「肉食女子」という言葉を産み出したコラムニスト・深澤真紀さんと、cakesの「ハジの多い腐女子会」「ハジの多い人生」でもおなじみ、編集者・文筆家の岡田育さんの対談がスタート! じっくりお話するのは実は初めてというおふたりが、「女」をめぐる諸問題のなかでもこれまであまり話されてこなかったことを徹底トーク。初回は「腐女子とフェミニズム」について語っていきます。

自分をいさめるための「フェミニズム」

岡田育(以下、岡田) 今日はお時間いただいてありがとうございます。深澤さんとはずっと、「一度対談しましょう」とお話していたのになかなか機会がなくて。TV番組『とくダネ!』の出演者同士として、飲み会では何度もご一緒してるんですが。

深澤真紀(以下、深澤) 育ちゃんのアメリカ留学の前に、対談しなくちゃ! と。いつもは育ちゃんと呼んでいますが、今日は対談なので岡田さんとお呼びします(笑)。
 岡田さんも私も、もともと出版社で編集者をやっていて、そこから文章を書いたり、テレビに出たりするようになったところとか、オタクなところとか、共通点があるんですよね。

岡田 cakesでいうと、ふたりとも二村ヒトシさんと対談してますね(深澤編岡田編)。

深澤 二村さんと私の対談は、一種の公開プレイのようでしたね(笑)。 私は前々から、岡田さんとは一度しっかりフェミニズムについて議論したいと考えていました。

岡田 それはぜひ。

深澤 私たちは腐女子で—私は世代的には腐女子というか、オタクややおいなのですが、しかもフェミニズムと近接したところにいると思うんです。
 腐女子とフェミニズムって切っても切り離せない問題で、私にとっても大きなテーマなんだけど、同世代とはあまり語れないんですよ。というか、フェミニズムと腐女子の両方を表明している人が少ないんです。

岡田 ああ、たしかに。よくよく話を聞くとどちらの側面も持っている、っていう人はいますけど、両方にまたがって活動している女子は少ないかもしれません。

深澤 だから、今日は一世代下の岡田さんと腐女子的なフェミニズム観やジェンダー観を話したくて。まず最初に聞きたいのは、そもそも岡田さんは、自分のことをフェミニストだと思っていますか?

岡田 これ、つい先日、別の知人からまったく同じ質問を受けました。そのときは、「もちろんジェンダー問題にまつわる本などは読むし、思想的にフェミニストと呼ばれる人たちの側だという自覚はある。意識や関心が人よりも高いとは思うけれども、活動家かと訊かれると、答えはNOである」という返し方をしました。

深澤 フェミニスト=活動家だと思っている人が多いですからね。

岡田 私の場合、小学校から思春期まで女子校で育ち、男でも女でもない、タカラヅカの“男役”みたいな性自認の時期が長かった。一方でかなり早い段階から腐女子でもあり、「男らしさ」「女らしさ」や自分のセクシュアリティについて、社会における男女不平等について、日常的に考える機会が多かったと思います。なんで私ばかりがオッサンの無理解に憤ってるんだろう、他の女子はなんで怒らないんだろうと不思議だったんですが(笑)、それが社会においては「フェミニスト」と呼ばれるあり方らしい、ということには、20歳過ぎてから気づきました。

深澤 ちなみに岡田さんが「フェミニズム」を説明するとしたら、どういう言葉になりますか?

岡田 うーん、私は「男女同権の実現を妨げる性差別はなくそうよ」という考え方の持ち主です。これは当然「フェミニズム」の範疇ではないかと。一方で、私が「フェミニスト」を名乗ることに幾許か抵抗を感じるのは、そう呼ばれている現在過去未来の活動家の人々と、どれだけ心から連帯できるか自信がないからだと思う。ちなみにここで言う「活動家」とは、映画『メリー・ポピンズ』のバンクス夫人みたいな戯画化された存在のことです。婦人参政権の獲得にかまけて自分の家庭や子供のことはほったらかし、という設定の……。彼女たちの功績があって今の我々があることはわかっていますが、「21世紀の現実世界を生きる私は、ああはなりたくないな」とも思う。
 おそらく私は、極度に個人主義的かつ超のつくリベラル、というだけの人間なんですよ。何物からも束縛や抑圧を受けたくないので、自分の信念のためには存分に闘いますが、別に「男vs女」の構造で大戦争を起こしたいとは思ってないし、ただ同じ「女」ってだけでは誰かの味方につけないときもある。

深澤 私も、「男性であれ、女性であれ、性によって生き方を規定されること」に違和感を覚える人たちが、「それぞれの方法で解決していく思想」をフェミニズムだと思っています。だから「女性差別」だけの問題だとは思わない。
 そして自分のことをフェミニストであると自称しているけれど—フェミニズム業界では、あまりそう思われていないのですが(笑)、活動家とは言えないと思います。なぜなら、私は「社会を正すため」というよりも、「自分の中のマチズモを諌めるため」にフェミニズムを必要としているからなんです。
 私は根本的にマッチョな人間で、他者への抑圧、支配欲がすごく強い。なにしろ子どもの時からマッチョでしたからねえ。

岡田 マッチョな子ども!(笑)

深澤 あのまま放っておいたら、権力おやじ的なおばさんになったでしょうね。名誉権力男性というか。うちは父親だけじゃなくて母親もそういう性格だったので、自分でも「このままではやばいなあ」と、子供の頃から思っていました。
 だから、フェミニズムで「自分」を律する必要があったわけです。そもそも、フェミニズムって社会的な「男対女」の問題だけではなくて、男であれ女であれ自分の中に持つマチズモ(※)を考える分野でもあると思っています。
 女性であっても、フェミニスト、鬼女(※)、男がすべて悪いと思っている人、「母親として、女として」と特別視する人、それぞれが自分の中に排他的で抑圧的なマチズモを抱えてしまいがちです。私にとってはまず、自分のためにフェミニズムが必要なんです。

※マチズモ:もともとは「男性優位主義」を指す言葉。転じて自らのアイデンティティの拠り所を「ある特定の人物や社会」に縛り、その関係のなかでのみ満足する、排他的な性質をもつ考え方のことを指すことも。

※鬼女:既婚女性(既女)の俗称。2ちゃんねるの「既婚女性板(鬼女板)」発祥だが、すべての既婚女性というよりは、鬼女板や「発言小町」にいるような、どろどろした人間関係を書き込んだり、自分に直接関係あるわけではないスキャンダルや事件などのバッシングにいそしんだりしているタイプの女性を指すとされる。

岡田 そう、「世界を『男vs女』でとらえている好戦的な人」みたいに誤解されるのが嫌なんですよ。本来の意味から言葉が離れていっちゃいますよね。やっぱり「フェミニズムっていうのは女から男への抗議活動だ」と思われがちというか。深澤さんの内なるマチズモについては追い追いうかがうとして、その「自分のために」フェミニストとして生きるという感覚は、私もよくわかります。

メインストリームを外れた男が嫌いな“おじさん”たち

深澤 私は学生時代からフェミニストでしたが、25年前に上野千鶴子さんに出版社を紹介されて編集者になって、上司から最初に「じゃあ、フェミニズムについての企画を出してみて」と言われたんです。でも出しても会議で通らない。

岡田 どういう内容だったんですか?

深澤 最初に出したテーマが「セックスレスな男たち」。当時はまだ、この言葉自体が日本に入ってきていなかったんですよ。
 アメリカの書籍や雑誌で、挿入至上主義に疲れた男性たちのエピソードなんかを読んで「これは日本にとっても、フェミニズムにとっても、大事な問題だ!」と企画書を出したら、上司たちに「深澤君、据え膳食わぬは男の恥と言ってねえ……。そもそも君の彼氏はヤッてくれないのかい」なんて言われるわけですよ。

岡田 うわあ。新米編集者に、ひどいハラスメント。

深澤 当時はセクハラという言葉が出てきたばかりで、そんなに知られていませんでしたからね。
 二つ目のテーマは「塾講師シンドローム」。これは、いわゆるエリートコースを選ばなかった高学歴男性についての話です。当時から、一流大学を出ても大企業にも院にも進まず、塾講師しながら生活や趣味を優先する人っていたんですよ。高等遊民というかエリートフリーターというか。でもこれも「東大を出てまで、塾講師とかになる男は俺は嫌いだ」とか言われて通らない。

岡田 あなたの好き嫌いは関係ないでしょ、って感じですね。

深澤 そして3つめに出したのが、伏見憲明さんを著者に据えた「プライベート・ゲイ・ライフ」。当時は美輪明宏さんとかおすぎさんとかピーコさんくらいしかゲイは知られていなくて、一般人が初めてカミングアウトした企画でした。
 一番通らないんじゃないかと思っていたこの企画が、なんとか通ったのですが、彼らがどうしてOKしたかというと、「ゲイは自分とは関係ないから」でした。

岡田 うーん……その、上司の方々というのは、やっぱり全員“おじさん”なんですか。

深澤 戦中派から焼け跡派まで50代から70代のおじさんたちですよ、団塊の世代は当時まだ40代ですから、その上の世代です。
 セックスレスの話のときなんて、一人が「僕たち年寄りにはよくわからないけど、一番若いタナカ君はどう思う」とか聞くんだけど、その若いタナカ君ってのがもう55歳で、話になんねーよ、って思いましたよ。

岡田 (笑)。

深澤 その時改めて思ったのが、「男のメインストリームを外れた男が嫌いなおじさん」って本当に多いんだなってことです。「俺たちはまじめに家族を養ってるのに、セックスレスや塾講師なんていう男は許せない」と思ってるわけですね。
 一方ではゲイに関しては、自分には関係ないというだけじゃなくて、ゲイは自分たち“男性”のことを好きだから、という理由で肯定している節もあるんですよ。そういう話題になった途端、「俺、二丁目では意外とモテるんだよ」なんてモテ自慢するオヤジとかいたりして。

岡田 ああ〜、いますよね、そういう人。自分の「男としてのモテ」に関わる側面からしか物事を見ない……。

深澤 「深澤君はフェミニストなのに、どうして男の企画ばかり出すの?」というのはおじさんからではなくて、フェミニストの女性たちからもずいぶん聞かれました。
 「マチズモに苦しむ男」に注目するフェミニストって、あまりいなかったんです。私は自分が社会のマチズモにも苦しんでいる一方で、マッチョではない男性に対しては、自分が抑圧してしまうところもあって。だからフェミニストと自称して、自分を諌めてるんですね。

岡田 深澤さんが提唱した「草食男子」という概念も、もともと、そういう視座から生まれたものですよね。単に恋愛に淡白そうな外見をしている男性のことじゃないし、彼らの(マチズモと比較しての)「弱さ」を批判するものでもない。

深澤 そうなんです。草食男子はそもそも、「マッチョではない生き方を選んだ男性」という意味で、名付けたものです。
 それがいまでは若者叩きの言葉になってしまったので、名付けてから10年近くたっていますが、今でも「それは誤解です、もともとは若者を褒めた言葉です」と言い続けています。これだけ流行してしまった言葉なので、なかなか伝わらないのですが。

女の国に留学してきた女たち

岡田 深澤さんはフェミニストを自称しているけれども、それは、自分の本質が“抑圧的なマチズモおじさん”の側だと思うから、ってことですよね。「くっ……鎮まれ、俺の邪気眼(マチズモ)……闇堕ちなどするもんか、俺は、フェミニストだー!」っていう(笑)。
 そういう自分の中のマチズモと、セクシュアリティとの関係性は? 自分のことを男のように思うとか、そういうことはないんでしょうか。たとえば私は、『オトコのカラダはキモチいい』という本に書いた通り、性的に興奮すると「心のちんこが勃起する」感覚をおぼえることがありますが……。

深澤 そう、マッチョな自分とフェミニストな自分がせめぎ合う、ちょっとした自分SMですよね(笑)。
 セクシュアリティに関しては、自分のことは男だとは全然思っていないんですよ。ただ自信を持って女だとは言えないというだけで。
 前に岡田さんが、「自分の中の“少女”には、フリルとピンクを与えておけばいい」って話しているのを聞いて、私にはそこはないなと改めて思ったんだけど。

岡田 それはね、私の場合、少女時代にダボダボした男物の服ばかり着たりして、自分の中の「少女性」にまったくかまってあげなかった、その反省からなんです。私の心の中には生まれつき、「中二病男子」とか「おっさん」とか「オカン」とか、いろいろな人格が住んでいて、その内の一人である「少女」は、「一番かわいかった頃にピンクのドレスを着せてもらえなかった」ってずっと拗ねてるんですよ。それがあまりにウザいから、たまにリボンやフリルを与えて慰めるんです。直近だと、結婚式で着たウエディングドレスかな。あのコスプレで10年分のツケを払った感ある。

深澤 私は、リボンやフリルを他人が着ているのを見るのは好きだけど、自分で着たいとは思わないんですよ。ひらひらして邪魔だし。
 自分の中の少女性とか女性性を否定するために、無理矢理そう思い込んでいるわけでもないし、もちろん、リボンやフリルを着る女性を馬鹿にしているわけでもなくて、単純にそういう嗜好がないだけだと思う。

岡田 私もないと思ってたんですよ、女子校のクラスメイトに「岡田はスカート禁止、オトコが履いてるみたいでキモイからー!」とか言われるような青春を過ごして、当時はそれが割と平気だったので(笑)。
 でもここ十数年で見つけましたね、心の隅っこに体育座りしてシクシク嘆いてる、すごく僻みっぽい「少女」の姿を。これはある種のコンプレックスだと思うんですが、深澤さんにはそういうものはないんでしょうか。

深澤 48歳時点の深澤真紀を観察した結果としては、ないと思いますね。老婆になってから急に発見するのかもしれないけど(笑)。
 ただ、いろいろなところで言ってますけど、私はとにかく「女オンチ」なんですよ。女性とか、女性の世界っていうものがよくわからない。もちろん男性のこともわからないんだけど、いまどきの日本女性のシステムって難易度が高すぎるでしょう。
 だからよく「女の国に留学してきた」っていう言い方をするんだけど……というかむしろ人間界に留学してきた、くらいかもしれない(苦笑)。

岡田 あ〜わかります! 私も何度、周りの女の子たちから「岡田はなんで私の気持ちをわかってくれないの!」って責められたことか……。非モテ男子向けに女ゴコロのメカニズムを説いた恋愛マニュアル本とか読むと、目からウロコが落ちまくるんですよねぇ。

深澤 京都のぶぶ漬け的な、暗黙のかけひきみたいなものがあるでしょう。私はそれをずーっと勉強中しているんですが、落第続きです(笑)。

(次回につづく)

構成:小池みき


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この連載について

女オンチな女たち

岡田育 /深澤真紀

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rswn921 https://t.co/khfANRMVpO 18日前 replyretweetfavorite

ericca_u “「もちろんジェンダー問題にまつわる本などは読むし、思想的にフェミニストと呼ばれる人たちの側だという自覚はある。意識や関心が人よりも高いとは思うけれども、活動家かと訊かれると、答えはNOである」” 9ヶ月前 replyretweetfavorite

TakagiShunichi 続き>cakesの深澤真紀さん岡田育さんの対談(https://t.co/jVlLvwch9N)中にあった “「自分の中のマチズモを諌めるため」にフェミニズムを必要としている” という言葉に、自分が『椿~』を制作した動機の一つが見えたように思い、コメント依頼したのでした。嬉しい! 10ヶ月前 replyretweetfavorite

koreaka2015  フェミニズムに興味を持ち始めた理由は人によってそれぞれ。それを語り合うことで新しい発見があります。 1年以上前 replyretweetfavorite