写真提供:淡路 愛
1.宿が激安!費用がかからない
巡礼者たちは、巡礼路沿いに点在する街や村にある「アルベルゲ」(巡礼宿)に泊まりながらゴールを目指す。だいたいどこの街や村にも必ず1軒はある、いわば巡礼者たちのターミナルだ。巡礼者のパスポートである「クレデンシャル」(巡礼手帳)を持っていれば、誰でも宿泊できる。
この巡礼宿が、驚くほど宿泊料が安い。キリスト教協会公設の宿であれば、だいたい5ユーロ前後でドミトリー式の宿に泊まることができる。私設の宿もあるが、それでも、10ユーロ前後。普通のゲストハウスに泊まるのに比べたら破格の値段である。中には、完全に「ドナティーボ(寄付制)」で成り立っている宿や、食事などのまかないが付いてくる宿もある。
「タダの宿なんて、どうせボロボロなんでしょ?」と思うなかれ。もちろん、先人たちの手垢にまみれた古い宿もあるが、中には建てられたばかりで、デザイナーズホテルか? と思うくらいにピカピカでオシャレなアルベルゲもある。そして古い/新しいにかかわらず、どこの宿もホスピタレイロ(巡礼宿の管理人、女性の場合はホスピタレイラ)によって清潔に保たれている。この道で巡礼者を迎える人々の、篤いホスピタリティが感じられるはずだ。
私が20日かけて500キロの道のりを歩いた時は、宿代は全部で1万円ほどだった。普通の旅行に比べていかに宿泊コストが安いか、お分かりになるだろう。
巡礼宿には個性があり、中にはサアグンという街にある、古い修道院を改築した宿や、ビジャフランカ・デル・ビエルソの「アベ・フェニックス」という巡礼者たちが手作りで建てた宿など、多種多様。「今日はどんな宿?」と、毎日変化を楽しめる。
2.ごはんが美味しく、かつ、低コスト
巡礼路は何本もあるが、代表的な「フランス人の道」は、スペイン北部、バスク地方から北西部のガリシア地方まで、4州を貫く一本の道である。州によって文化や食習慣が異なり、多様な顔を持つのがスペインの魅力だ。歩を進め、州をまたぐたび、文化の違いを体感できる。
とりわけそれがはっきり表れるのが、なんといっても食だろう。スペインの食文化は多種多様。バスク地方では新鮮な魚介類やこの地方発祥のピンチョスという小皿料理、ナバラ州では名物のチョリソ、海に近いガリシア地方では新鮮なバカリャウ(タラ)やタコ……と、ご当地グルメに関しては、枚挙にいとまがない。しかも、巡礼路は概して田舎。バルセロナやマドリッドに比べたら驚くほどの低価格で、それらの名物料理を楽しめる。レストランは安いし、スーパー買った食材で朝・昼・夜と自炊すれば、食費も1日10ユーロ前後だ。
そして、ここが一番のキモであるが、なんといっても、ワインが水より安いのだ! 巡礼路がまたぐ北スペインは、ワインの名産地。蛇口をひねればうどん出汁が出てくるのは香川だが、文字通り、蛇口をひねればワインが出てくるのが北スペインだ。巡礼路の途中には、本当に、「ひねるとワインが出てくる蛇口」が設置されている場所もある。
一日歩き終わったあと、巡礼宿の芝生の庭で、太陽の光を浴びながらワインで乾杯するのは、めちゃくちゃ気持ちがいい。「来てよかった!」と思える瞬間である。
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