柴那典(以下、柴) 前回「SEKAI NO OWARIが体現する『架空の時代』の『魔法の世紀』」は、SEKAI NO OWARIの躍進が今のJ-POPが「架空の時代」になっていることの象徴なんじゃないか、という話でした。
大谷ノブ彦(以下、大谷) 等身大の共感を集めることよりファンタジーを描くことが重要になりつつある、ということですよね。でもね、決してそれが唯一の正解じゃないと思うんですよ。
柴 というと?
大谷 「ミスチル、道重、テイラー、ZEDD……1989の革命者たち」でも言いましたけれど、6月に出たミスチルのニューアルバム『REFLECTION』が大ヒットしたわけですからね。桜井和寿という天才が、もがきながら、あがきながら、リスナー全員のリアリティにどう寄り添うかを考えて作った作品が、あれだけのスケールで受け入れられた。
柴 あのアルバムは23曲入りという大ボリュームで「歌を通してみんなの思いを共有する」ということをやりきったわけですしね。
大谷 それはそれで本当に格好いいし、すごいことだと思います。
柴 確かに、ファンタジーを描くことが重要になったからと言って、「ただギターを弾いてるだけのバンドはもう生き残れない」というわけではまったくない。
大谷 まったくそうですね。むしろ今だって、いいバンドがどんどん出てきてる。
柴 パンクシーンはまさにそうですね。10-FEETのようなキャリアの長いバンドも根強い人気を持っているし、人懐っこいメロディとキャラでぐんぐん人気を増しているWANIMAのようなニューヒーローも出てきている。
大谷 そういうバンドはファンタジーに頼らないけれど、歌以外の言葉も大事にしているんですよね。10-FEETの主催してる京都大作戦に行った人の感想聞いたら、みんな「とにかくアーティストのMCが長い!」って言うの(笑)。
柴 たしかに! みんなひたすらMCをしゃべりまくってた。
大谷 とにかく伝えたいこと、熱い思いがあって、それを真っ直ぐに自分の言葉で語るんですよ。今はそういう10-FEET以降、京都大作戦以降の新世代バンドがどんどん出てきてる。特にすごいのがBLUE ENCOUNT。
大谷 彼らのMCがまた熱くて長い。しゃべりながら自分で泣いちゃったりしてね。さだまさしかブルエンか、っていうくらいのMCの長さ。
柴 ははははは! ブルエンの田邊くんは熱い男ですよね。音源だけ聴くと「ああ、最近よくあるタイプのバンドね」と思う人もいるかもしれないけど、ライブを観れば彼の生き様が一発で伝わる。
大谷 大仁田厚みたいなね(笑)。しかもそれがちゃんとお客さんに突き刺さっている。一緒に泣いちゃう人もいる。ほんと大好き。
柴 そういうバンドだったら、たとえ演出はシンプルであっても、ライブは一回限りのスペシャルな体験になる。
大谷 そう。バンドはバンドなりのやり方で、音楽だけじゃないプラスアルファをもたらすライブをやっているんですよ。
アジカンが建築家とコラボした理由
柴 そういう意味で言えば、アジアン・カンフー・ジェネレーションのやっていることもすごくおもしろいんです。現在全国ツアーの真っ最中で、こないだ横浜アリーナの公演に行ってきたんですが、彼らはテクノロジーを使って今までにない演出の手法を導入したライブをやっているんですよ。
大谷 え、アジカンが?
柴 そうなんです。彼らの今のライブは、ステージに白い立方体がたくさん立っていて、そこにプロジェクションマッピングの手法で映像を映し出して、その上で演奏している。
大谷 今のアジカンって、こういうセットでやるんですね。
柴 しかも、このステージセットは建築家の光嶋裕介さんが手掛けていて、それもアジカンの『Wonder Future』という新作のテーマとリンクするものになっているんです。
大谷 どうつながってるんですか?
柴 実は彼らの新作に描かれているのが「架空の街」らしいんです。だからセットにも光嶋さんが描いた架空の街のドローイングが投影されていた。しかも、それはフー・ファイターズの『ソニック・ハイウェイズ』というアルバムへのオマージュになっている。
大谷 あのアルバムは、「大御所たちが思いを馳せる初期衝動と歴史の物語」で語ったとおり、フー・ファイターズがアメリカの各都市を巡って、音楽の歴史を掘り下げて作ったアルバムでしたね。
柴 アジカンは新作アルバムをそのフー・ファイターズのプライベート・スタジオで録音した。つまり彼らもフーファイの意志を継承している。この『ソニック・ハイウェイズ』のジャケットって、よく見るとアルバムで題材にした8都市の建物やビルを合体させた「架空の都市」のイラストになっているんです。
大谷 なるほど! そことつながるんだ!
柴 そこで、もともとリスペクトしあっている同士でもあり『幻想都市風景』という作品を発表している光嶋裕介さんに「架空の街」というテーマでステージセットを依頼したわけなんですね。
大谷 アジカンなりのやり方でJ-POPの「架空の時代」に対峙しているんだ。なるほど、おもしろいなあ。
柴 しかも、『Wonder Future』のジャケットが真っ白になっているのと、ステージセットが白い立方体だというのも、つながっているんですよ。ゴッチは収録曲の「小さなレノン」で「さあ イメージ 〜 喩えろよ 塗り替えろよ」と歌ってるんですけれど、つまりは、今回の作品は真っ白なキャンパスだ、ということなんですね。聴き手がそこに未来のイメージを描いてほしいという。
柴 単なるエンターテインメントじゃなくて、ステージの演出にもちゃんと主張が込められているのがアジカンらしいなって思います。
Ken Yokoyamaが「Mステ」で見せたパンク精神
大谷 今の話から、まさに次話したいテーマ「Ken Yokoyamaと21世紀のパンクスピリット」につながりますね。
柴 Hi-STANDARD時代から20年以上にわたってパンクシーンを牽引してきたKen Yokoyamaが、先日初めて『ミュージックステーション』に出演しました。そこでシングル『I Won’t Turn Off My Radio』の表題曲を披露した。
大谷 これ、大事件ですよ。ハイスタ時代からテレビに出ようとはしなかった伝説のアーティストが、地上波の人気番組に出た。まず僕はね、この新曲の歌詞がグッとくるんです。