あなたは わたしの熱い肌
触れもしないで 世界を語る
ほんとの世界は ここにあるのに
(やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君)
春はみじかく 浮世は夢よ
あなたの腕を たぐり寄せ
手のひらのうえ はずむ私の胸ふたつ
(春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ)
黒くてきれいな わたしの髪も
あなたがふれた 心臓も
みだれ みだれて 朝になる
(くろ髪の千すじの髪のみだれ髪かつおもひみだれおもいみだるる)
恋する女の くちびるに
つやつやグロス 毒入りの
滑らせたいの わかるでしょ
(人の子の恋をもとむる唇に毒ある蜜をわれぬらむ願い)
「みだれ髪」
与謝野晶子(1878 ~1942)
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