号外】火星に生命は存在したのか?世界が議論する!探査ローバーの着陸地は?

あなたが宇宙船に乗っていて、火星にいける。だけど、火星にいけるからといって火星の全部は回れず、選べるのは1箇所だけ。どこに着陸しよう、どこを調べたらいいんだ...?同じ悩みが今、世界規模で起きている。「2020年火星ローバー打ち上げ計画」着陸できる箇所は1箇所だけ、場所を決める世界会議、開催!

 あなたが宇宙人の団体旅行の一員で、宇宙船に乗って地球へ向かう途中だと想像してください。地球は美しい風景や豊かな歴史と文化で名高く、この星でしか食べられない美味珍味なグルメも豊富で、あなたは期待に胸躍らせて到着を待っています。すると船長がなにやら気まずそうな顔で出てきて、乗客に重大なことを告げます。

「えー、カクカクシカジカの理由で、この船は地球の一箇所しか訪れることができなくなってしまいました。つきましては、どこに行くか、乗客の皆さんで相談して決めてください。」

 乗客の間には不満の嵐が吹き荒れるが、そうはいっても仕方のないものは仕方ない。すぐに喧々諤々の議論が始まります。

「ローマがいい。面白い歴史的建造物がたくさんあるから。」

「歴史もいいが自然もいいぞ。ガラパゴスなんてどうだ。海の美しさも地球随一と聞く。」

「パリよ。ルーヴルやオルセーを見ずに地球に行ったなんて言える?」

「京都なんかも良さそうですよ。歴史や芸術だけでなく、食べ物もおいしいそうですし。」

「歴史だの芸術だのとお堅いなあ。タヒチでも行って、綺麗な海を見ながらのんびりしようぜ。」

 なにしろそれぞれの乗客の趣味や好みが違うから、この議論をまとめるのは至難の業でしょう。地球がそれほどにも面白い場所に溢れた豊かな星だからこそです。

 実は同じような議論が現在、NASAで行われています。ただし、地球のどこに行くかについてではありません。火星のどこに行くかについてです。

 NASAは2020年に次世代の火星ローバーを打ち上げる計画です。ローバーは1台しかありません。しかし、火星はあまりにも面白い場所に溢れています。その中からたった1箇所を選ばなくてはいけない。これはなかなか大変な議論なのです。


火星2020年ローバーの構想図。Credit:NASA/JPL-Caltech

 その議論をするためのワークショップが、先週にカリフォルニア州モンロビアで行われました。参加したのはNASAの職員だけではありません。世界中から宇宙地質学や宇宙生物学の科学者が参加しました。火星ローバーの着陸地点選定は非常にオープンなプロセスで行われます。NASAの人間だけが密室で議論するよりも、世界中の科学者の知恵を集めたほうがより科学的価値のある着陸地点を見つけることができると考えているからでしょう。ワークショップは誰でも参加できます。候補地は世界中の科学者から公募しますし、投票では、NASAの研究者も大御所先生もポスドクも、全ての科学者が平等に一票ずつを投じます。

 今回のワークショップは4回あるうちの2回目で、21箇所ある候補を約8箇所に絞り込むのが目的です。2017年1月にある第三回のワークショップでさらに4箇所に絞込み、最終的に2018年の第四回ワークショップで1箇所の着陸地点を決めます。

 では、いったいどのような場所が「面白い場所」なのか。2020ローバーの最大の目的のひとつは、火星の生命の痕跡を見つけることです。約40億年から35億年ほど昔には、火星はもっと温暖で、地表には川が流れ、海があったことがほぼ確実視されています。ノアキス代(Noachian)からヘスペリア代(Hesperian)と呼ばれている地質時代です。地球ではこの時期にはすでに生命が誕生し、進化を始めていました。ですから、この時期の火星にも生命が存在したと考えることは全く不自然ではありません。その証拠が見つかりそうな場所が、2020ローバーにとっての「面白い場所」ということになります。

 さらに、2020ローバーは火星の土のサンプルを30個程度採取し、試験管のようなチューブに入れて火星に置いておく予定です。まだ構想の段階ですが、その次の火星ローバー計画が承認されれば、このチューブを回収し、地球に持ち帰るという段取りになっています。つまり、人類がはじめて手にする火星の土は、2020ローバーの着陸地点のものとなる可能性が高いのです。なおさら着陸地点の選定が重要になるわけです。

 しかし、面白ければどこでもいいというわけでもありません。着陸地点はいくつかの条件を満たしている必要があります。主な条件は次の3つです。

1. 北緯30度から南緯30度の間にあること。北緯30度とは地球でいえば種子島あたり、南緯30度はシドニーのあたりです。理由は単純で、それより北や南では寒すぎるから。寒いとローバーを温めるヒーターが電力を食いすぎて、走行に必要な電力が十分に残らないからです。

2. 標高500メートル以下であること。火星着陸時にはエアロシェルやパラシュートを用い、空気抵抗により減速しますが、火星は大気圧が地球の1%しかないので、標高が高いと十分に減速する前に地面に激突してしまいます。

3. 現在も生物が存在する可能性が高い場所を避けること。たとえば沖縄に外来種として入ってきたマングースのせいでヤンバルクイナなどの希少な固有種が絶滅の危機に瀕している、などという話をよく聞きます。同じように、火星ローバーにくっついた地球の菌が火星で繁殖し、火星に存在するかもしれない生態系を破壊してしまうリスクがあります。なんだかSFのような話に聞こえるかもしれませんが、NASAの太陽系探査では大真面目に議論されているリスクです。ですから、火星に着陸する探査機はすべて、まるで牛乳のように、ロケットに積む前に高温殺菌されます。

 たとえば最近、毎年夏になると斜面を液体の水が流れ下ったような跡ができる場所が火星の地表で多く見つかっています。もし火星に現在も生物がいるとすれば、そのような場所にいる可能性がもっとも高いと考えられています。ぜひローバーでRSLまで行って調べてみたいのも山々なのですが、万が一、殺菌しても死なないしぶとい菌がいたら大変です。ですから今回のミッションでは、そのような場所は避けることになっているのです。

Credit: NASA/JPL-Caltech/ Univ. of Arizona

 二日半のワークショップの間、このような条件を満たした候補地21地点について、科学者たちが熱い議論を交わしました。そして最後に投票が行われ、21地点すべてに科学的価値の観点から順位がつけられました。そのトップ3を紹介しましょう。

 第3位はNE Syrtis(北東シルチス)。北緯17.8度、西経77.15度にあります。単純に地球の緯度経度に置き換えればジャマイカあたりの位置になります。豊富な水が存在したノアキス代中期から火山活動が活発化したヘスペリア代初期までの数億年にわたって、生命が存在した可能性のある多様な環境の記録が残っていると考えられています。第一回のワークショップでも高い順位だった場所で、今回3位に入ったのは順当な結果と言えるでしょう。

 第2位はColumbia Hills (コロンビア・ヒルズ)。南緯14.5度、西経175.4度で、地球の緯度経度に置き換えればフィジーのあたりです。ここが2位に入ったのが今回一番の番狂わせだと僕は思っていて、多くのJPLの同僚も同じように思っているようです。なぜならここはスピリットという火星ローバーが既に行った場所だからです。スピリットの探査では、様々なミネラルを含む多様な岩が発見されました。科学的に面白いことは間違いありません。しかし、旅行は同じ場所に何度も行くよりも新しい場所に行ってみたいもの。火星探査も、一度行った場所を再探査するより、新しい場所に行くほうが良いのでは、という意見もあります。

 余談ですが、コロンビア・ヒルズという名前は、2003年に空中分解事故を起こしたスペースシャトル・コロンビア号にちなんで名付けられています。7つある丘には、事故で命を失った7人の宇宙飛行士の名がつけられています。

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小野雅裕 /小山宙哉

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