良い文章とは完読される文章である

ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」編集部で新人育成を担当している唐木元氏。毎日膨大なニュース記事を書く記者たちを支えているのは、通称「唐木ゼミ」と呼ばれる社内勉強会の実践的なメソッドです。そんな唐木ゼミの初回の授業は、「良い文章」の目標設定について。どうしたら文章がうまくなるか悩んでいる人が最初にイメージすべき達成目標とは?

究極の目標は「完読されること」

「良い文章って何だろう?」。

 唐木ゼミの初回は、必ずこの問いで始まります。参加者には順繰りに、何度も答えてもらいます。あなたも考えてみてください。

 たとえば1周目「わかりやすい」「知りたいことが載っている」「テンポがいい」。2周目「間違いがない」「うんざりしない」「気が利いてる」。3周目「得した気分になる」「人に話したくなる」「元気が出る」……こんな具合に答えが膨らんでいきます。

 どれも良回答、正解だと思います。ただ答えが無数にあっては学びが難しくなってしまうので、上級者になるまでの間は、たったひとつの万能解を掲げ、そこへの到達を目指すことにします。それだけ気にしていればさっきの回答すべて、それどころかたいていの問題をカバーできてしまうマジックワードをお伝えしましょう。それが「完読」です。

 この連載ではおしまいまで通して、「完読される文章が良い文章」ということに設定します。


おしまいまで読んでもらうことの難しさ

 逆のことを考えてみましょう。たとえば文章がわかりづらかったら? 読み進むのをやめてしまう人の割合が増えていくはずです。テンポが悪かったら? 間違いだらけだったら? やっぱり離脱者が多くなる。自分の役に立たないと思ったら? 内容と比べてあまりに長文だったら? 雑誌でもウェブでも、ページをめくるか閉じてしまいますよね。

 そう考えていくと、文章のおしまいまで読者を連れていくことがどれだけ困難か、理解してもらえるのではないでしょうか。特に近年のネットユーザーは私も含め、長文への耐性が低下しています。かったるさを感じたら、すぐ離脱したくなってしまう。そうすると情報も断片でしか渡せなくなってしまいます。

 そういったこらえ性のない読み手に情報を不足なく手渡し、メッセージを伝えるために、私たちは文章力を磨かなければならないのです。これはナタリーのようなニュースサイトに限らず、あらゆるメディア、あらゆる仕事の現場に適用できる、普遍的な課題といえるでしょう。

目標を掲げて腕を磨く

 ほんとうのことをいえば、良い文章とは何か、それは「時と場合による」ものです。しかし特に初心者のうちは、目指すべき状態をはっきり見定め、迷いなく腕を磨いていく必要があります。

 そのために私が用意した、考えられる限りもっとも万能で強力なフラッグが「完読」です。だいぶ乱暴ですが、信じてついてきてください。

ダメな文章は「食べきれないラーメン」

 さあ、究極の目標「完読されるのが良い文章」が設定されました。これを目指すにあたって、もう少し突っ込んで考えてみたいと思います。

 「完読」という概念を伝えるとき、補助線として「完食」という話題を出すと、理解してもらえることが多いように思います。フレンチでも懐石料理でも同じことなのですが、ここはひとつ、誰にでもなじみのあるラーメンに登場してもらいましょう。

 あるラーメン、評判も知らずフラリと入った店で出てきたラーメンが目の前にあるとして、あなたはどんなとき、食べきれず残してしまいますか?

 またゼミ生を当てていきましょう。1周目「多すぎる」「伸びてる」「麺ののどごしが悪い」。2周目「虫が入ってる」「店内が不潔」「具がなくて単調」。3周目「食べたかった味じゃなかった」「味が濃すぎ」「逆に味がしない」……話がラーメンとなると、矢継ぎ早に答えが返ってきます。

 ところでここは文章力の教室です。順に言い換えればつまりこういうことでしょう。「文章が長すぎる」「タイムリーな話題じゃない」「リズムが悪くてつっかかる」。続いて「事実誤認がある」「誤字や用語の不統一がある」「繰り返しばかりで飽きる」。3周目は「求めていない内容」「主張が強すぎる」「得られるものがない」。

 したがってこれらの逆をいけば、完食されるラーメン、すなわち完読される文章に近づいていくことができそうです。

おいしく完食できる一杯を

 適切な長さで、旬の話題で、テンポがいい文章。事実に沿った内容で、言葉づかいに誤りがなく、表現にダブりがなく変化の付けられた文章。読み手の需要に則した、押し付けがましくない、有用な文章。もちろん条件はこれだけではありませんが、こんな文章がもしあったら、引き込まれたままおしまいまで読んでしまいそうですよね。

 これから長く付き合っていく「完読される文章」という旗印。見失いそうになったら、おいしく完食できるラーメンを思い出して、ジャッジメントの補助線としてみてください。

ニュースサイト「ナタリー」の実践的メソッドで「書ける人」になる

この連載について

新しい文章力の教室

唐木元

文章を「書きながら」考えていませんか? 毎月3,000本以上もの記事を配信し続けるニュースサイト「ナタリー」で新人教育を担当する唐木元氏が、「書ける人」が自然にやっている基本を誰でも実践できるメソッドとして伝えます。 本連載で...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

YOML_ 読みやすさについてのツイートを見たので。「最後まで読める」というのは、文章としてそれだけで十分な価値です。 ◎「リーダビリティについて」 https://t.co/CXHSz0lkG3 ◎「」 https://t.co/bwprupPcLx 18日前 replyretweetfavorite

alfanote_info とてもわかりやすく、すぐ実践出来そうな記事だったのでシェア(*‘∀‘)「 T 6ヶ月前 replyretweetfavorite

koziseren うちのブログは、ユーザーの滞在時間が短いから…。しっかり完読してもらえる文章になるように精進せねば…。 >> 9ヶ月前 replyretweetfavorite

nanzatsu1203ken https://t.co/zON4tEWBHT 11ヶ月前 replyretweetfavorite