ツイッターに投稿されたたった1行のフレーズが、380万ドル(2015年8月現在のレートで約4億5千万円)以上の価値を生んだ例をご存知でしょうか?
2013年2月3日、全米が注目するアメリカンフットボールの祭典「スーパーボール」で事件は起こりました。
この年のスーパーボウルは、レイベンズ対49ersの試合がニューオリンズのメルセデスベンツ・スーパードームで開催されました。レイベンズが28-6でリードした第3クオーターのこと、スタジアムの上層階の照明が突然消えはじめ、停電で試合が35分間におよび中断するというハプニングがあったのです。
停電してしばらくたち、多くの人々がいつ復旧するんだ、とイライラしている時、その1行は生まれました。
ツイートしたのはアメリカのクッキーブランド「オレオ」のツイッター公式アカウントでした。イライラしている全米の人たちに向かって「停電だって? 問題ないね(Power out? No problem.)」とつぶやいたのです。
リンクされている画像を見ると、暗闇にスポットライトに照らされ浮かび上がるオレオのクッキーの写真。そして以下のキャッチコピーが書かれていました。
真っ暗でもダンクすることはできるさ。
YOU CAN STILL DUNK IN THE DARK.
ダンクとは、液体にひたすという意味。アメリカではオレオを牛乳にひたして食べる人が多いので「スタジアムは停電で暗くなっているけど、オレオを牛乳にひたして食べことはできるよ」くらいの意味になります。
スポーツでダンクというとバスケットボールのダンクシュートを連想するかもしれません。しかしアメフトにおいても、タッチダウンした後の喜びをあらわすダンク(ゴールポストの水平バーにボールをたたきつける)というパーフォーマンスがあるのです。
このあまりにタイミングがいい広告は、ネットでまたたく間に話題になりバズが広がっていきました。
当日だけで1万2千以上リツイートされました。またフェイスブックでも2万のライク!(いいね!)と6千以上のシェアを獲得しました。多くの人たちが、タイムリーで緊張をとくユーモアあふれるオレオの広告に賛辞のコメントを残したのです。アメリカにはピンチの時こそユーモアで場の緊張を和らげることができる人を評価する風潮があります。それがこのような賛辞に結びついたのです。多くの人が家にあったオレオをダンクして食べたり、改めて買いに行ったりしたことでしょう。
スーパーボウルのCM枠は世界一高額な放映料で知られており、30秒で380万ドルとも言われています。また提供各社は、その日のためだけに億以上の制作費をかけて渾身のCMを制作するのが一般的です。しかしこの1行による波及は、それ以上の効果があり、放映されたどのCMよりも効果があったと試算されました。
このような素早い対応ができたのは理由があります。オレオのマーケティング担当代理店のソーシャルメディアチームがスーパーボウルの試合中、会社に管制センターをおいてずっと戦況をみつめでながら待機していたからです。何か特別なことがあれば、それに合わせた発信をする予定でした。チームはこの停電をチャンスととらえ、すぐに広告を製作し、一緒に待機していたオレオの責任者の同意をとりつけ、発信したのです。
実はオレオは、このスーパーボウルのTVスポットのスポンサーでもありました。
オレオのCMは第1クオーター終了時にすでにオンエア済みでした。図書館で2人の男が小声で言い争うところから、全館を巻き込む大パニックになるという大がかりなものでしたが、あまり話題になりませんでした。莫大な制作費と放映料をかけたにもかかわらず。
それに比べて「制作費も放映料もほとんどかかっていないひと言のツイートの方がはるかに話題になり売り上げにつながった」という皮肉な結果でもあったのです。
POPのひと言でシルバー世代にバカ売れ
東京上野のアメ横によく知られている菓子店があります。
それが「二木の菓子」です。
終戦直後の1947年にダンボール一箱の面積からスタートし、今ではアメ横をはじめ関東に10店舗以上の店をチェーン展開しています。
この店の特徴は、よそでは売れない商品でも、強い言葉を使ったPOPで新しい価値をうみだし、売りさばくということです。専務の二木英一さんは『なぜ20円のチョコでビルが建つのか?』(秀和システム)で以下のようなエピソードを紹介しています。
ある時、二木の本部にある取引先から「あんドーナツ」の売り込みがありました。40年以上変わらない製法で作り続けられている懐かしい味わいがセールスポイントです。
食べてみると、とても甘く手作り感があり素朴の味わいです。だからといって「40年間変わらぬこだわりの製法」「懐かしい味わいのドーナツ」などの言葉で売ると、確実に店頭で埋もれてしまう予感がしました。
そんな時、60代の男性店員が「昔は甘いものって特別な時しか食べられなかったんだよ」と語りはじめました。その発言の一部を使って、以下のようなキャッコピーが書かれたPOPが作成されたのです。
今となっては素朴だけど、昔はこれが贅沢だったんだ!
自らのマイナスポイントを正直に語るという内容で、形としても対句になっていることもあり、非常に強いフレーズになっています。
このPOPをつけると、1店舗を除き二木の菓子全店であんドーナツは飛ぶように売れました。60代70代のお客さんが共感してくれたのです。この1行により平凡なお菓子の中に眠っていた新たな価値を発掘されたのです。そしてお客さんの心を突き刺しました。
1店舗だけ売れなかったのはなぜでしょう? それにはちゃんと原因がありました。
その店だけが違うPOPをつけていたのです。店員が届いたPOPを見て、キャッチコピーがピンとこなかったので勝手に書きなおしていたのです。
そこに書かれたキャッチコピーは「昔懐かしい味、今も昔も変わらぬ贅沢を」でした。
内容はほとんど同じでも、よくPOPに書かれているような手垢がついた常套句的な表現です。それでは高齢のお客さんの心を刺し共感を呼ぶことはできなかったのです。
その後、前述した対句のPOPに変えると、その店でもあんドーナツは飛ぶように売れたといいます。
言葉を強くする2つの方法
商品名や1行のフレーズによって商品がバカ売れしたり、大きな経済効果を生み出したりした例を見ました。
このような1行はどうすれば書けるのでしょうか?
こうすれば必ずヒットするという魔法の法則はありません。
しかし、一般的に「強い言葉」を使うと、受け手の心に刺さり記憶に残ります。そうなると受け手が行動したくなったり買いたくなったりする確率は大幅にあがるのです。
言葉を強くする方法はいろいろありますが、最低、以下の2つのことを意識してみてください。それだけでも言葉は強くなります。
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