こんにちは、外科医の雨月メッツェンバウム次郎です。
今回は「マウンティングをやめたとき、人は楽に生きられる」なんてタイトルでお話してみようと思います。
私の周りに、「誰からも好かれる人」っているんです。すぐに浮かぶのが男性と女性一人ずつ。
男性は病院の後輩外科医(30)で、それほどイケメンではないんだけれど、とても清潔感のあるタイプ。
いきなり話がそれますが、「男性は清潔感が大切」と言いますけど、これって私は「洋服」と「髪」と「ヒゲ」の3つだと思ってます。男ってあんまりしょっちゅう服を買ったりしませんから、気づくと夏場のTシャツの襟首がよれよれだったりする。もちろん一回着るごとに洗濯しますけど、たるったるなだけで清潔感がなくなってしまう。髪は、月イチくらい切っていないと襟足やモミアゲがもじゃもじゃになっちゃう。ヒゲもたまに無精髭がかっこいいと勘違いする人がいますが、綺麗に剃るか整えている方がいい。
この「洋服」「髪」「ヒゲ」がきちんと手入れされていて、たまに鼻毛でもチェックしようもんなら「清潔感」男子と認定してもらえそう。
話を戻して、誰からも好かれる後輩外科医の彼はすごく清潔感があるんです。身なりはいつも綺麗ですし、彼、実はすごくヒゲが濃いのですが、それを気にして夕方以降はマスクを必ず着用するんです。私それを聞いて本当にびっくりしました。ヒゲなんて生理現象だし、しょうがないとは思うんですけど、それでも彼は周りの人が不快に感じるかもしれないと思ってマスクを着けるんですって。やるなあ。
でね、注目すべき点がもうひとつあって、彼はしゃべり方がとっても特徴的なんです。なにかこちらから尋ねると「アーイヤー」って低い声で必ず言ってから喋るんです。あんまりいつもいつも言うもんですから、私を筆頭にみんなモノマネをし始めた。上司たちが真似し、看護師さんたちが真似し、ついには後輩医師たちまでが真似し始めた。
そんなに真似されまくっているのに、それでも彼は「アーイヤー」をやめられない。すごく不器用な男なんです。なんだか冗談もあんまり通じないし、なにかギャグを振られても「アーイヤー」で終わってしまい、うまいこと言って返すなんて絶対にできない。不器用で、ぎこちなくて、真面目なんです。(いちおう彼の名誉のために、手先は器用ですよ、外科医ですから)
こんな男、誰からも好かれますよね。
もう一人、誰からも好かれる女性がいます。
彼女は実は若い頃に命が危うくなるような大病を患っていて、しかもそれを周囲にさらりとカミングアウトしている。いや、本人にとってはカミングアウトなんて感覚でさえなくて、「ああ、そういえば小さい頃はピアノを習ってたのよ」くらいの感じで言っている。ひょっとしたら大変な勇気を持って言っているのかもしれませんけど、周囲にはそうは悟らせない。
すごく笑顔が素敵で、顔じゅうで笑ってしまう。ものすごい美人さんというわけではないけれど、目がぱっちりとして声が高い。自信とエネルギーに満ち溢れていて、よく喋るしよく食べる。体型はお世辞にもスタイルがいいとは言えなくて、ぽっちゃりを少し超えたくらいのボデーをしている。
不思議なことに、出会った人全てが彼女を応援したくなるんですよ。しかも男性からもかなりモテている。
なんだろう、この二人の共通点は。
もちろん二人ともとても努力家で、まっすぐに生きている魅力はある。ですが、私はもう一つのある要素が存在すると考えます。とっても書きにくい人間の感情なのですが、あえて指摘したい。
この二人と出会った人。一瞬にして、彼らの「欠損」を見つけます。男性の彼はあった瞬間に「ヘンなしゃべり方だな、ぎこちないな」と思いますし、女性の彼女の場合は大病の過去とぽっちゃり体型が瞬時に把握される。
その瞬間に、出会った人の心の中には彼や彼女との一対一のコミュニケーションにおいてすぐに余裕が生まれます。「ああ、この人は自分よりも欠けている」と思うわけです。まあ言わば意識の俎上に上る前での「無意識マウンティング」(※マウンティング;意味は文章の最後を参照)をしているんですね。
「私はこの人に勝っている。」
だから、この人のことを好きになるんです。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。