本日、8/1(土)深夜27時40分から「心のベストテン」が、なんとフジテレビで一夜限りの特別放送に! テーマは「架空の時代のJ-POP」。SEKAI NO OWARI、アジカン、ゆずなどについて語ります。ぜひ御覧ください〜♪
みんなというのは、結局のところ一人の集合体でしかない
柴那典(以下、柴) 前回の記事で話したように、僕の2015年上半期ベストソングはZEDDの「Beautiful Now」だったんですが、大谷さんはどうですか?
大谷ノブ彦(以下、大谷) 僕は星野源の「SUN」。この曲はね、本当に最高! しかも、ドラマ主題歌でめちゃめちゃ売れてる。2015年の暫定ナンバーワンです。
柴 新曲、本当に素晴らしいですよね。
大谷 今の星野源のアプローチはソウルミュージックなんです。フィリー・ソウル※を今に蘇らせている。前に話した、ディスコやブギーソウルが流行ってるここ最近の感じにもフィットしている。
※フィリー・ソウル:フィラデルフィア発の都会的なソウルミュージック
現代シンガーソングライター論
柴 「SUN」は彼が敬愛するマイケル・ジャクソンがモチーフになっているそうです。「Hey J! いつでもただ一人で歌い踊り」という歌詞もある。
大谷 僕、この一曲を聴いて、今この人がやっていることは桑田佳祐さんとか筒美京平さん※に匹敵するんじゃないかと思いましたよ。特に、こんな風にソウルをJ-POPに昇華してヒットさせられる人、彼のほかには筒美京平さんいかいないんじゃないかという。
※筒美京平:1940年生まれ、作曲家。作品の総売上枚数は7600万枚を越えて、歴代1位の記録を誇る。
柴 星野源自身、そういうレジェンド的な存在の役割を引き継ごうとしているのかもしれないですね。前の曲の「Crazy Crazy」は植木等やクレイジー・キャッツへのオマージュですし。
大谷 それに、アメリカの音楽をどう取り入れて日本のものにするかというのは、星野源が一番尊敬している細野晴臣さん※がずっとやってきたことでもありますからね。しかも、この「SUN」は前回話した「WEの時代」のポップソングにもなっているんですよ。
※細野晴臣:1947年生まれ、ミュージシャン。はっぴいえんど、ティン・パン・アレー、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)など伝説的なバンドを率いた。
柴 というと?
大谷 サビで「君の声を聞かせて」「君の歌を聴かせて」と歌っている。合唱が起こりそうなメロディもある。
柴 たしかに。でも、彼はそういう風に一体感を生み出す「WE」のポップソングをずっと作ってきた人ではないですよね。むしろ4年前は「I」の歌を作っている。
大谷 その通り。それが「くせのうた」とか「くだらないの中に」。
柴 「くだらないの中に」なんて、好きな人の髪の匂いをかぐ歌ですからね。ものすごく距離の近い関係の歌をしっとりと歌っている。そこから病気やいろんなことがあって、今は明るく弾けるようなポップを歌うようになった。
大谷 つまり、この人は「I」と「WE」の、両方のハイブリッドだと思うんです。「SUN」だってそう。とてもポジティブな歌なのに、「祈り届くなら 安らかな場所にいてよ 僕たちはいつか終わるから 踊る いま」って歌うんです。このフレーズがあるからこそ心に響くメッセージ・ソングになっている。
柴 やっぱり大事なところでは、みんなじゃなくて一人に呼びかける言葉を選んでいるんですね。
大谷 一人に向き合うっていうのは、すごく大事なことなんですよ。僕がラジオというメディアが好きなのも、そういう理由。聴いている人はいつも一人なんです。
柴 そうそう、僕も聞いたことがあります。福山雅治さんって、テレビに出るときには「みなさん」と言って、ラジオで喋るときには「あなた」って呼びかけるんですって。
大谷 そうなんですよ。「ラジオの前のあなた」なんです。みんなというのは、結局のところ一人の集合体でしかない。だから今の時代のシンガーソングライターがやるべきことは、やっぱり「WE」ではなく「I」の歌を届けることなんじゃないかと思う。
柴 星野源はその意識をちゃんと持ち続けている、ということですね。
裏返しの意味が加わってるからこそ説得力が生まれる
大谷 もう一人、そういうことをずっとやり続けてきた人が高橋優なんです。彼の「明日はきっといい日になる」という新曲、これが素晴らしい。僕は彼の最高傑作だと思います。