新開ははじめ「便所掃除キャラ」だった!?
—— 『弱虫ペダル』の魅力は、個性的なキャラクター造形にもあります。そうしたキャラはどのように生み出しているんでしょうか?
渡辺航(以下、渡辺) 実は僕にも描いてみるまでわからないんです。ネームの1コマ目からいきなり描いてみて、そのキャラクターがどういう反応をするかがわかる。「このキャラクターととこのキャラクターは、この距離だったら叫ぶように話しているな」とか、「このキャラクターがびっくりしてれば、このキャラクターはこういう反応をしているだろう」とか。いわば絵の対話ですね。
—— プロットのようなものや、キャラ設定表などを作っていく作り方ではない?
渡辺 話数ごとに打ち合わせはきちっとしてあって、「今回は、こういう展開で、このキャラクターがこういうかっこいい台詞を言います」と編集さんと決めはします。でもそれを描く段階になって、キャラクターを並べて走らせて絵にしてみると、会話ややり取りが打ち合わせにはない展開に変わっていく。その中からキャラクターがぽろっとしゃべることでキャラクターの個性が決まる、という感じです。
—— じゃあキャラが登場した段階では、まだ漫画に描いてあることしか渡辺さんの中でも決まっていなくて、描いていくうちにキャラがキャラになる瞬間がある……?
渡辺 そういう作り方をしています。ベースになる部分はもともと作ってあって、たとえば新開隼人の場合、「食べるキャラクター」というのは最初から決まってました。でもしっかり登場するまでは「箱根学園では下支えの努力型キャラクター」という設定として打ち合わせをしていました。でも新開がバーンと出てくる、その瞬間に、「おれは新開 ゼッケン4 箱根学園のエーススプリンターだ」とバキュンポーズをやっちゃった(笑)。
—— 全然下支えキャラじゃないですね(笑)。
渡辺 あれには僕も驚きました。ちょっと前まで「便所掃除をしているようなやつ」みたいな話をしていたくらいなんですよ。
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