劇場版、3か月連続公開。
2015年10月2日(金) 『屍者の帝国』(監督・牧原亮太郎 制作・WIT STUDIO)
2015年11月13日(金)『虐殺器官』(監督・村瀬修功 制作・manglobe)
2015年12月4日(金)『ハーモニー』
(監督・なかむらたかし/マイケル・アリアス 制作・STUDIO4℃)
『虐殺器官』『ハーモニー』の内容に触れています。未読の方はご注意ください。
■「小島秀夫からの影響」っていうか要は冒険小説ってことでしょ?
伊藤計劃はアクションSF小説/SF冒険小説作家としてとらえるのがもっともふさわしい。
これが僕の持論である。
伊藤計劃はゲーム『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』のノベライズもしており、同シリーズ(MGS)をつくった小島秀夫からの影響を公言している。
——ことが、逆に見えにくくしているものがある。
そもそもMGSは冒険小説からの影響があることであり、伊藤計劃にも冒険小説からの影響があることだ。
伊藤はインタビューなどでジョン・ル・カレやグレアム・グリーンが書いた冒険小説を読んでいたことを語っているが、小島秀夫のMGSからの影響に比べて、その点が議論の俎上にのぼることは少ない。
それもそのはず、「冒険小説」といっても今や30代以下の大半には「ジャングル冒険したりするジュブナイルみたいなものですか?」というイメージしかないくらいになってしまっているからだ。
せいぜいがアニメ『PSYCHO-PASS』で言及されていたから「ギャビン・ライアルは読みました!」とかマンガ『ブラックラグーン』の「元ネタらしいので船戸与一読みました!」くらいのものだろう。
冒険小説とはそもそもなんぞやとかその歴史については北上次郎の本でも読んでいただくとして、簡単に言えば、スパイとか傭兵みたいな政治的なバックグラウンドを背負った人物を主軸にした現代アクション小説、といったところである。
もっとも有名なものは『007』だろうが、よく言えば「しゃれた」、わるく言えば「軽い」、ジェームズ・ボンド型の主人公は、シリアスな冒険小説ではクサされる対象である。むしろジャンル内評価の高い作品の多くは、組織と個人のあいだで引き裂かれ、シビアで、苦味をのこすものであったりする。
MGSもこういう作品群から少なからぬ影響があるのだが、冒険小説―MGS―伊藤計劃、または冒険小説―伊藤計劃というラインはあまり話題にならないし、盛り上がりにくい。MGSの圧倒的なメジャーコンテンツっぷりと比べると、冒険小説はマイナーポジションになってしまっているからである……。
このジャンルは、80年代には翻訳ものも国産のものも隆盛を誇り、90年代以降はムーブメントとしては沈静化していった。
どんなものにも流行り廃りはある。フォーマットが飽きられれば、そのジャンルはしぼんでいく。
しかしそのジャンルに影響を受けた作家が年をとり、書き手として成長すれば、あたらしい風がふたたび吹くこともある。
伊藤計劃の作品は、冒険小説のあたらしいかたちであり、SFとの融合だった。
そう位置づけると、しっくりくる。
その隣に高野和明『ジェノサイド』や月村了衛『機龍警察』を置けば、文脈は自明だろう。高野や月村も冒険小説に多くを拠っており、そのエッセンスを継承しながら、あたらしいことにチャレンジしている作家である。
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