新訳 世界恋愛詩集

夜露のように消え失せろ」在原業平

奪った恋、奪われた恋。その胸の痛みは、1200年前も現在も何ひとつ変わらないもの。
平安時代きっての美男、プレイボーイとして知られる在原業平。祖父・平城天皇の失脚により政治的な道を閉ざされ、和歌と恋の道に逃避するかのように生きた業平の三首が12世紀の時を経て、菅原さんの超訳により現代に甦ります。
メディアプロジェクト「詩人天気予報」などでも話題を集める詩人・菅原敏さんが、古今東西の詩人の作品に新訳という名のオマージュを捧げる本連載。気鋭の現代美術家・久保田沙耶さんのアートワークとともにお楽しみください。


この世に 桜がなかったならば

春の心は おだやかで

かき乱されることはない

この世に おまえがいなければ

ひとりの夜さえ おだやかで

酒と歌とで 満ち足りた



俺はおまえを 盗み出した

背負って走る 真夜中に

草についた露を見て おまえは言った

「葉の先で光っている、これは真珠?」

あのときの夜露のように

ふたり 消えたら良かったのに



この月は あのときの月ではない

この春は あのときの春ではない

ただ俺だけが あのときのまま

取り残されて

夜露にふれる

ひとつぶ こぼれる



「夜露のように消え失せろ」

世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし


白玉か何ぞと人の問いし時 露と答えて消えなましものを


月やあらぬ 春や昔の春ならぬ 我が身一つはもとの身にして

在原業平(825~880)

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
新訳 世界恋愛詩集

菅原敏 /久保田沙耶

あまたの恋を書き残してきた、かつての詩人たちに、新訳という名のオマージュを。『新訳 世界恋愛詩集』は気鋭の詩人、菅原敏による新連載。いにしえの恋愛詩の輪郭を、菅原敏のいまの言葉でなぞっていきます。古い詩集に絵の具を落とし、新たな色で輪...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

rainbow_0320 この世に 桜がなかったならば 春の心は おだやかで かき乱されることはない この世に おまえがいなければ ひとりの夜さえ おだやかで 酒と歌とで 満ち足りた https://t.co/mWO5Z0BKww (詩人・菅原敏さんが在原業平の歌を新訳したもの) 1年以上前 replyretweetfavorite

tetrapost 詩人による新訳とかステキすぎる…!授業でこういう訳も紹介されたら、歌に興味わいてとっつきやすくなりそう。イラストもかなりステキ。小中高の国語に取り入れてほしい…。 https://t.co/5gFsiTJQnW 約2年前 replyretweetfavorite

7010nyandaful 「夜露のように消え失せろ」 タイトルのインパクトがすごいが詩の内容に共感できる訳。 在原業平さんの切なさにキュン死しそう。 https://t.co/XAbU5dahF6 約2年前 replyretweetfavorite

waternavy たらればさん、在原業平の「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」などもあります! @tarareba722 https://t.co/vwxnXRbzhk https://t.co/LOP4vCC8EJ 約2年前 replyretweetfavorite