『人生スイッチ』は、アルゼンチン出身の監督ダミアン・ジフロンの作品である。アルゼンチン本国で2014年度興収1位の大ヒットを記録して話題となり、日本でも公開の運びとなった。映画は、同一のテーマを持つ6つの短編によって構成されている。テーマは「怒り」。6つの短編作品は別個のストーリーとなっており、それぞれは関連性を持たないが、ある状況で発生した恨みや憎しみ、理不尽さを題材としている。直面した状況に対して、登場人物たちがどう決着をつけるのかを描いている点では、共通した展開になっているといえよう。レッカー移動された愛車、態度の悪いレストランの客、ひき逃げ事故を起こした息子など、さまざまなシチュエーションから物語は発展していく。6作品の並べ方も絶妙で、さまざまな憤怒の暴発が、最終的には映画的なカタルシスへとつながっていく構成がみごと。プロデューサーとして、『トーク・トゥー・ハー』(’02)で知られるスペインの有名監督ペドロ・アルモドバルが参加している。
この映画は、怒りとは時間と共に忘れられたり、どこかへ消えてしまったりするような生やさしい感情ではないという、どこか確信めいた言い切りに特徴がある。一度発生してしまったら最後、正当な復讐や対価の支払いによってしか解消しえないハードな感情だというのが、本作における怒りの定義なのだ。「恨みを晴らす」などというが、冷静に考えれば、これほど手間とコストのかかる作業はない。しかし、本作の登場人物たちは、このめんどうな作業にあえて取り組むのである。
たとえば1番めの短編『おかえし』は、ある飛行機に乗り合わせた乗客たちの話だ。隣り合わせた客どうしの何気ない会話から、ふたりには共通の知人がいたことがわかる。その知人の名前を口にしたとたん、周囲の人間がつぎつぎに「その男を私も知っている」と声をあげる。結果、飛行機に乗っている乗客全員が、「その男」にひどい仕打ちをし、恨みを買っている者たちだったと判明する。なぜそのような偶然が起こるのか。しかし、それは決して偶然ではなく、「その男」によって周到に仕組まれていたことが判明する。「その男」は、過去に受けた屈辱を忘れず、目的の実現へ向けて着々と計画を進めていた──。
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