村上龍「年齢にかぎらず、あらゆる世代が軽視されている」

このほど、4年ぶりの新作長編『オールド・テロリスト』を発表したばかりの村上龍さん。世直しを期して立ち上がった後期高齢者たちが、日本を焼け野原にしてリセットしようとするスリリングなエンターテインメントです。その一方で、ここで描かれる社会の歪は、現実世界と生々しくリンクしているように感じさせます。この物語が生み出された背景には、日本社会に対するどのような思いがあったのでしょうか――。

村上龍がいま輝いている3つの理由

4年ぶり弩級の長編小説!
1976年のデビュー以来、数々の話題作を発表。今回の『オールド・テロリスト』は、世界への怒りが丹念に貫かれた4年ぶりの長編小説です。

時代を切り取る鋭利な洞察力!
『半島を出よ』『55歳からのハローライフ』をはじめ、世相を鋭く抉る作風は独特。その鋭利さは時代が変わっても他の追随を許しません。

過去作も再ヒット中!
テレビ番組の影響から、『コインロッカー・ベイビーズ』(1980)が再びブームに。未だに版を重ね続ける作品が多く、時を越えて読み継がれる「情報」が詰まっています。

老いてますます盛んな高齢者たち

— 待望の新作『オールド・テロリスト』。70歳を超える戦争を経験した老人たちが世直しを目的に立ち上がり、テロ行為に身を投じるという設定がいかにも斬新でした。まずは今回、高齢者に着目されたきっかけから教えてください。

村上龍(以下、村上) 昨今、高齢者というのは、あまり良く言われないことが多いと思うんです。たとえば社会保障費の問題を見ても、若年層が働いて払った税金で老人が養われている現実に不満を持つ人は少なくありません。
 でも、80歳まで生きるというのは、それだけで大変なエネルギーを要すること。なかには年齢を重ねるにつれて心身ともに参ってしまい、自ら命を断つ方もいますが、長年『カンブリア宮殿』のような番組をやっていると、びっくりするほどパワフルでバイタリティあふれる高齢者に出会うことがしばしばあるんですよ。

— たとえば、とりわけ印象に残っているのは、どのような方々ですか?

村上 典型的なのはスズキ自動車の鈴木修会長やニトリの似鳥昭雄社長などでしょうか。70代後半から80代にかけての人たちでも、ちょっと接しただけで「異様に元気のいい人だな」と感じる人が珍しくなく、いつも番組スタッフと感心しているんです。そういった人たちが持っているエネルギーは、今回の物語の大きなヒントになっていますね。

— たしかに『カンブリア宮殿』を拝見していると、これほどエネルギッシュな人だから今の地位を築き上げることができたのだろうなと、感銘を受けることが少なくありません。

村上 つい先日も、某食品メーカーの社長と食事をご一緒したのですが、もう80近いのに、肉を300グラムくらい食べるんですよ。「村上君はどのくらい食べる?」と聞かれたので、「私は80グラムくらいで…」と答えたら、「ダメだよ、そんなんじゃ。人間はちゃんと肉を食べないと」と叱られたほどで(苦笑)。結局、自分も200グラムくらい食べたんですけど、あのパワーには圧倒されますよね。下手をすると(現在63歳の)自分よりも元気なのではないかとすら思います。

— そう考えると、労働人口を維持するために女性の活用を促すのもいいですが、高齢者の活用をもっと検討してもいいのかもしれないですね。

村上 まあでも、実際には難しいと思いますよ。さすがに今挙げたような人たちは特殊なケースですし、スキルの面で現在の労働に対応できる人材がどれだけいるかという問題もある。これはなかなか一筋縄ではいかない問題でしょう。

軽視されているのは高齢者だけではない

— 今回、村上さんは「あとがき」の中で、次のように語られています。「老人、とくに男の高齢者の多くは、一般的に社会から軽視されている印象を受ける。(中略)高度成長を生きた元企業戦士の高齢者は、考え方が古く、成功体験に支配され、時代の変化について行けず、IT音痴で、頑固で保守的で、無能なのに長年会社に居座り、語るのは昔の自慢話ばかりで、意味も根拠もなく威張る、などと評される」。だからこそ、彼らが立ち上がったらおもしろいという着想に至ったわけですね。

村上 そうですね。でも、これは高齢者にかぎったことではないんです。現在はどの世代もみんな軽視されているように感じています。つまり年齢の問題ではなく、あらゆる世代において、リスペクトされている人と置き去りにされている人との二重構造が出来上がっているのが実情じゃないですか?
 高齢者層に対して愚痴を言いたい人は多いでしょうけど、カンブリア宮殿で出会うようなエネルギッシュな人もいるわけですから、一括りにはできません。

— また、物語の序盤では、たとえば電車内の光景を「多くの若者は、携帯を操っている。数百人の若者が申し合わせたようにまったく同じ動作をしているのは不自然な光景だ」と描写するなど、随所で現代社会に蔓延する倦怠感のようなものが切り取られている印象を受けます。

村上 私自身は普段あまり街を出歩きませんが、それでもたまに電車に乗ったりすると、ここに描いたように、若い人たちがどんどん類型化しているように見えてしまうんです。道を歩いていても、片手にコンビニ袋をさげて、もう片方の手でスマートフォンをいじっているという感じ。雨の日に自転車で傘をさしながらメールを打っている人すら見かけます。本当にそこまで急いでメールを出さなければいけない相手なのかなと思いますけどね。おそらく、スマートフォンをいじっていると何となく落ち着くというか、気が紛れるんでしょうけど、自転車でのスマホはだいいち危ないですよね。

— たしかにそうですね。こういった光景は、文明が成熟し過ぎたがゆえの弊害なのでしょうか。社会的に末期に差し掛かっているからこその停滞感というか……。

村上 末期とは思わないですけど、今、先進国というのはどこも勢いがないのは事実ですよね。それでもアメリカなどでは移民を受け入れたりしている分、社会の中で文明の衝突が起こり、人々のエネルギーのようなものが垣間見えたりしますが、日本はそういったことも少ないです。

— 日本社会には化学変化が起きるような刺激が不足している?

村上 そうかもしれません。反原発デモなどを見ていると、日本の若い世代もやるときはやるんだな、と思います。でも、全体的には、変化という概念そのものが失われている気もするんですね。

— まさしく今回の『オールド・テロリスト』では、立ち上がった高齢者世代がテロという行為を通して、社会に大いなる刺激を注入する図式が見られます。

村上 ただ、私は決して若者批判をするつもりはないんです。今、自分にフィットした仕事をしていて、明確な目標や目的を持っている20~30代というのは、もしかすると数パーセントしかいないかも知れない。そんな背景を考えると、若い人たちが置かれている困難な状況がなんとなく理解できますし、ある特定の世代を批判することにあまり意味はないですからね。



次回「“希望が必要”な状態に追い込まれた時代」へつづく

村上龍(むらかみ・りゅう)

1952年長崎県生まれ。76年に『限りなく透明に近いブルー』で第75回芥川賞を受賞。『コインロッカー・ベイビーズ』で野間文芸新人賞、『半島を出よ』で野間文芸賞、毎日出版文化賞を受賞。また、『トパーズ』『KYOKO』では映画監督も務めた。このほか、日本の金融・政治経済の問題を考えるメールマガジン『JMM』の運営や、経済トーク番組『カンブリア宮殿』(テレビ東京)のホストなど、幅広く活躍中。

構成:友清哲 撮影:吉澤健太


怒れる老人たち、粛々と暴走す。4年ぶり唯一無比の最新長編!

オールド・テロリスト
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いま輝いているひと。

cakes編集部

あの人は、どうして輝いているのか。いま目が離せないあの人に、たっぷりお話を伺います。

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コメント

menmakafka “村上龍の今”を新作を通して村上龍が語る。やっぱり村上龍の作品は「歌うクジラ」が圧倒的に好きです。 https://t.co/qIZzveTQUU 1年以上前 replyretweetfavorite

tomoko_am 新作読まねば。 1年以上前 replyretweetfavorite

not_trendy 人に限らず、な話でもある気がする。殆ど全てにおいて、軽視が基本的な基調をなしている時代だと思う。。 1年以上前 replyretweetfavorite

RieDorji ブータンに住んでいるからこそ思うのですが、文化背景が違う人達による社会の活気って大切だと思います。 1年以上前 replyretweetfavorite