野生が我々に求めているのは、土地について学び、
すべての鳥や動植物に黙って挨拶し、流れを渡り、
尾根を越え、家に帰って楽しい話をすること。
(ゲーリー・スナイダー『野生の実践』より)
野生へと通じる小道
日本だけでなく、今世界中で、「農」が人気を集めている。若い世代には、農的な暮らしを求めて都会を後にする人が少なくない。職業としての農業を志す人、家族のための食料自給を目指す人もいるが、たいがいはベランダや庭や市民農園などでの小規模のガーデニングから始まる。それもまた自然界とのつながり直しに向けた一歩なのだろう。
「森のようちえん」と呼ばれる幼稚園が全国に増えている。これは、本来、人間に欠かすことのできない大切な自然体験が、現代社会の中で極めて少なくなったことへの反省から、北欧やドイツの教員や親たちが始めた運動だ。 「森のようちえん全国ネットワーク」のホームページには、「大切にしたいこと」として、まず、「自然はともだち」、「いっぱい遊ぶ」、「自然を感じる」「自分で考える」といった合言葉が並んでいる。そして、目標として、「自然の中で、仲間と遊び、心と体のバランスのとれた発達を促す」こと、「自然の中でたくさんの不思議と出会い、豊かな感性を育む」こと、「子どもの力を信じ、子ども自身で考え行動できる雰囲気をつくる」ことなどがあげられている。
おもしろいのは、こうした教育が、子どものためにだけあるのではない、という考え方だ。子ども、親、保育者が、自然の中で「共に育ちあうこと」が大事だという。
ぼくが勤める大学で、ぼくは学生たちと一緒に、キャンパス内外の田んぼや畑で作物を育てている。すべて手作業で、化学肥料や農薬も一切使わない。はじめのうちは国際学部なのに、なんで? と首を傾げる人もいたけど、ぼくは国際人よりもっと先を行く「地球人」になるためには、何より、「自然の一部として生きている自分」を見出す必要があるのだ、と信じている。
そういえば、ぼくの大学では、ここ数年、キャンパスでヤギを飼っている。草地に放しておけば、草刈りをしてくれるので助かるという実用的な理由もあるだろうが、何よりも、町のただ中に現れた「動物たちのいる風景」が、ぼくたち人間のうちに、忘れかけていた何か貴重なものを呼び起こすのだ。
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