イラスト:長尾謙一郎
アメリカの価値観が今、変わりつつある
柴那典(以下、柴) GLAY、ジャニーズの話と続いたので、今回は洋楽の話に行きましょう。アメリカが今、変わりつつあるという話題。
アラバマのド田舎から変わりゆくアメリカ
大谷ノブ彦(以下、大谷) これはアラバマ・シェイクスのことですよね。
柴 そうです。アメリカの南部のアラバマを拠点にするロックバンドで、2ndアルバム『サウンド・アンド・カラー』が全米1位になった。
Alamaba Shakes「Sound & Color」
大谷 いやあ、ここまで売れるとは思わなかったですよ。
柴 土臭いブルースやソウルですからね。デビューの時から評価は高かったですけれど、通好みというか、ここまでブレイクするとは思っていなかった。
大谷 ルックスだって可愛いタイプじゃないですし。
柴 歌っているのは肝っ玉母ちゃん的な黒人女性ですしね。大谷さんは、なんでアラバマ・シェイクスがここまで人気になったんだと思います?
大谷 これはもう、ここ数年の流れの必然だと思いますね。ソウルやブルースなどアメリカのルーツ・ミュージックを甦らせて巨大なセールスをあげるアーティストが次々と登場した。
柴 アデルは、まさにその代表ですよね。『21』(2011)が世界中で売れまくった。
Adele「Rolling in the Deep」
大谷 アルバム『AM』(2013)で化けたアークティック・モンキーズもそう。
Arctic Monkeys「Why'd You Only Call Me When You're High?」
柴 確かにアデルもアークティック・モンキーズのアレックス・ターナーも、アラバマ・シェイクスを絶賛していますね。
大谷 でも、アデルもアークティックも、みんなイギリス出身のアーティストなんですよ。
柴 なるほど。だからこそ、その反動でアメリカ出身のルーツ的なバンドが求められていた。
大谷 そうなんです。一方で、「大御所たちが思いを馳せる初期衝動と歴史の物語」で前にも語ったように、フー・ファイターズがアメリカ各地の音楽文化を掘り下げるということをした。アメリカの国民的なバンドがそういうことをやったというのも大きかったと思いますね。
柴 アラバマ・シェイクスの地元のアセンズというのは南部のド田舎ですからね。そこから出てきたバンドが「こんな田舎はうんざりだ、ニューヨークに行きたい」みたいな歌じゃなくて、故郷に誇りを持って音楽を作っている。そういう人たちが受け入れられるようになったわけですね。
大谷 それだけじゃないんです。今、アメリカの社会のあり方とか、人々の価値観がどんどん変わっているんですよ。だからこそ彼らが新たなスターになった。
柴 どういうことですか?
大谷 こないだ、アメリカでは同性婚も合法化されましたよね。どんどん多様性を認める時代になってきている。でも、そこに最後まで抵抗しているのが南部の保守派だった。
柴 そうですよね。それこそアラバマ州の最高裁知事※が同性婚の合法化に「国の基盤が破壊される」と反発していたりしました。
※ 同性婚めぐる対立勃発?! 米連邦地裁に南部州最高裁反旗 - 産経ニュース
大谷 正直、エンターテイメント界でもそういう頭の硬い人たちに対して風当たりが強くなっていると思うんです。で、いまやアメリカのカントリーやルーツ・ミュージックはそういう保守派の象徴になりつつある。だからテイラー・スウィフトはその世界から抜け出したんじゃないかと思うし。
柴 テイラー・スウィフトが去年に出した『1989』が、まさにそういうアルバムでしたね。「ウェルカム・トゥ・ニューヨーク」という歌もあった。「ニューヨーク最高! みんなここに来なよ」という。
大谷 その一方で、アラバマ・シェイクスは、南部出身でルーツ的な音楽をやりながらも、黒人女性と白人男性が一緒にグループをやっている。
柴 人種や性別の差別を乗り越える象徴になっているわけですね。
大谷 そうそう。そういう時代の中で求められた新しい「南部のスター」なんだと思います。
怒りと嫉妬からポップが生まれる
柴 じゃあ、そこから次の話題に行こうと思うんですけれども。「悪意をゴージャスに昇華するポップの力」。これがまさに、テイラー・スウィフトの話なんです。
悪意をゴージャスに昇華するポップの力
大谷 というと?
柴 テイラー・スウィフトについては「年間ベスト2014」でも話したんですけど、彼女の「Bad Blood」という曲が、まさに悪意をテーマにした曲なんです。「バッド・ブラッド」っていうのは、血が沸騰するような怒りっていう意味。ケンドリック・ラマーという今一番注目を集めているラッパーとコラボしたこの曲の新しいバージョンがこないだ公開されて。
Taylor Swift「Bad Blood ft. Kendrick Lamar」
大谷 さすがですよねえ。
柴 で、この曲、一説にはケイティ・ペリーのことを歌った曲だと言われているんですよ。