もうおしまいだ
とあなたがいった
そうね
わたしは年をとった
時雨にぬれる木の葉も
かつての約束の言葉も
色あせてしまったから
あのころ わたしは
夜の衣を裏返して着た
あなたが触れた表地に
いだかれ 素肌で感じていたい
どうか夢で会えますようにと
あなたを想い 袖を通した
いまでは
花の色も あせてしまった
桜に降る 春の長雨
ほんのひととき
移ろう恋に身を寄せた
かつての私は 綺麗だった
『そうね、私は年をとった』
今はとて 我が身時雨に ふりぬれば 言の葉さへに うつろひにけり
いとせめて 恋しき時は むばたまの 夜の衣を 返してぞきる
花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
小野小町
小野小町(生没年不詳)