古川享「高校時代に、社会を動かす経験を。それは将来、大きな仕事をする自信になる」

KADOKAWA・DWANGOの高校設立準備にちなんだ、各界の著名人への教育についてのインタビュー。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の教授であり、元マイクロソフト株式会社会長の古川享さんに、新しい高校に望むことや、これからの時代に必要とされる教育のあり方についてうかがいました。高校にもメンター制度が必要、グローバルで活躍するにはプレゼン能力より「傾聴力」が大事など、次世代の教育へのヒントがつまっています。

大学生に報酬3億円。アスキーには若い人材を活かす文化があった

— 前回は、創業まもないアスキーに入社されたところまで話をうかがいました。入社当時は主にどういった仕事をされていたんですか?

古川享(以下、古川) 『月刊アスキー』の編集ですね。2年目には副編集長になりました。アメリカで見てきたことをもとに、ITの未来はこうなるという予測記事を書いたりしていたんです。また、アスキーラボラトリーという研究所をつくり、新しいパーソナルコンピュータを使ってみて評価やテストをしていました。英語で“Eating your own dog food”っていうフレーズがあるんですけど、人におすすめする前に自分で食ってみなさい、ということです。それを実践してたんですね。

— あの頃のアスキーは、雑誌編集だけでなくいろいろなことをしていたそうですね。

古川 ぼくはAppleⅡが発表されたときにちょうどアメリカにいたんですけど、アスキーに入った頃はNECのPC-8001が登場する前夜でね。NECに行ってマイクロソフトのBASICを導入してもらうよう交渉する、といった仕事もしていました。

— その頃まだ、古川さんは20代ですよね。そんなに重要な仕事をしてたんですか!

古川 25歳だったかな。そういう会社だったんですよね。創業の頃のアスキーには、学生アルバイトがたくさんいました。彼らにも大きな権限を移譲していたんです。そのなかのひとりが、その頃早稲田大学の2年生だった中島聡さん。CADソフトの草分け的存在となった「CANDY」というすばらしいプロダクトをつくったので、アスキーは彼に書籍の印税のようにロイヤリティを払う仕組みをつくって、けっきょく3億円くらい払ったんです。

— すごい金額ですね! まだ中島さんが大学生の時ですよね?

古川 そうです。若くても学生でも、いいものをつくったらちゃんとリワードを与える。そういうカルチャーがアスキーにはあったんですよね。彼はその後NTTに入社して研究所で32bitCPUの開発などをしていたのですが、ぼくがアスキーからマイクロソフトの日本法人に移るときに、電話で連絡をくれました。「いまぼくがマイクロソフトに行くと言ったら、社員番号2番にしてくれますか」ってね。それで、いいよって返事したら「ぼくは最終的にあなたを雇う身分になると思っているので、その前に1回だけあなたの下で働いてあげますよ」って言うんだよ。笑っちゃったね。

— 実力があるからこそ、言えることというか(笑)。

古川 そう。そして、お互いの人格や能力、勢いみたいなものを尊重して、思いっきりチャンスを与えるというアスキーの文化だからこそ、中島さんを活かすことができたんです。

— これは、今の日本の教育の中ではできていないことかもしれません。

古川 日本の教育では、突出した人間は「はみ出し者」として取り扱われてしまう。みんなと同じにしなさい、というのは可能性の芽を摘んでしまいますよ。秀でた能力はそのままでいいと認め、それをさらに活かす場所を提供するような教育でないといけないと思います。また、先生の側も制限を受けていますよね。

— 子どもの能力を伸ばしたくても、現行の教育制度の中ではそれができない。

自ら知識をつかみ取る力を育てるのが教育

古川 教育委員会が用意したカリキュラムに沿って授業をおこなわなければいけない、という縛りがありますから。教育者にも突出することを許して、自由にカリキュラムが組めたらいいと思います。あとね、ぼくは子どものころ、歴史の授業が嫌いだったんです。だって本を読めば書いてあるようなことを、なぜ学校で勉強しなきゃいけないの? と。

— 学習の進度もそれぞれなのに、大人数の教室の授業では、みんなで歩みをそろえるしかないですしね。

古川 歴史を学ぶのは重要ですよ。でも、みんなで一律に教科書を読む必要はない。ビジネスで成功している人たちに話を聞くと、小中学校のときに百科事典を読んでいた人が多いんですよ。学校の教育では得られない広範囲な知識にアクセスする手段が、昔は百科事典だったんですね。その知識を自分の生きる力に変えていった人が、活躍している。いま、百科事典に代わるのがインターネットです。インターネットで出会う知識・知見が、自分自身の叡智になっていく。

— 今の子どもたちは、インターネットで世界中の情報にアクセスできますからね。

古川 だからこそ、インターネットで必要な情報を得る術を教えることが重要だと思います。昔、ぼくらはラジオのディスクジョッキーのかける音楽を聞いて、今世界ではどういう音楽が流行ってるのか、どういうジャンルの音楽が自分は好きなのか、ということを覚えていきました。ネットワーク上の情報の場合でも、そういう役割の人がいたらいいですよね。「昨日のWWDC(※1)の発表聞いた? 聞き逃したんなら、まとめがこのサイトにあるよ」と教えてくれるようなね。
※1 Worldwide Developers Conferenceの略称。アップルが毎年開催している開発者向けイベントで、新製品の発表などもおこなわれる

— 興味のある情報や、これから興味を持ちそうな情報のありかを教えてくれるんですね。

古川 教育というのは、先生が持っている知識を与えるものではなくて、自分で知識をつかみ取る力をつけることなんじゃないかと思います。それが一番、その子が伸びる。

— そういったことも含め、今回KADOKAWA・DWANGOがつくろうとしている高校には、どういうことを期待されますか?

古川 ぼくが採用してほしいのは、メンター制度ですね。信頼できる社会人のお兄さんやお姉さんが、一人ひとりについて、「私もあなたくらいの歳のときは、こういうことで悩んでいて、こういうふうに解決してきたよ」とメンタリング(※2)してくれる。
※2 指示や命令ではなく、メンターと呼ばれる指導者が対話によって自発的・自律的な発達を促す方法

— 企業では取り入れられているところもありますが、高校で取り入れるのは新しいですね。

古川 そのうち、この高校の卒業生がまた新しい高校生のメンターになってくれたりして、循環ができたらすごくいいと思うんです。通信制高校に通う子には、人間関係で悩んでいる子も多いはず。「人とうまく話せない」など、親や友だちに言えない心の葛藤を相談できる相手がいたら、人間的に大きく成長できるでしょう。

人生は徒競走じゃない。全員がやりたいことで一番になれる

— これからグローバル化していく社会の中で、古川さんはどういう力が求められていくと思われますか?

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ネットが変える新しい教育

cakes編集部

本日、KADOKAWA・DWANGOがネット時代の新しい高校設立を目指しているという発表がありました。そこで今回ドワンゴとcakesの合同で、各界の著名人に、教育、学習についてインタビューをおこないました。

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コメント

tr_IchiTaka ある意味自然だわな。 https://t.co/4w6MXPWKh6 6ヶ月前 replyretweetfavorite

n_soda @kosaki55tea 元マイクロソフト株式会社社長の古川氏からの推しはそれなりに大きかったような気がします。 たとえば https://t.co/L084yBUza4 とか。 約1年前 replyretweetfavorite

ora109pon https://t.co/Xz83AhCnoy 3年弱前 replyretweetfavorite

ora109pon https://t.co/Xz83AhTYg6 3年弱前 replyretweetfavorite