モノを作る世界から、作らない世界へ
「ところで、君の周りに、45歳以上の人間がいるかね?」
「はい。たくさん」
「その45歳以上と話していて、どんなところに価値観の違いを感じることがあるかね?」
「そうですね……」
「今ぱっと浮かんだ人間がいるね」
「会社の先輩です。ちょっと見栄っ張りの……」
「その人は独身だね」
「よくわかりましたね!」
「そうだなぁ。都内、通勤時間30分圏内のマンションに1人暮らし。ローンは完遂してる。車は旧型のBMWといったところかな」
「そうです」
「では、君が見たところの、その先輩の価値観を教えてくれないかね?」
「先輩は、若い頃にバブルを経験している……。モノを欲しがる……」
「というと?」
「飲みに行って、メニューを選ぶじゃないですか」
「うむ」
「その時、必ず『じゃんじゃん持って来ちゃって』って言うんです。で、いつも食べきれず残すんですよね。僕は“もったいないな〜”って思って店を出るんです」
「なるほど、目に浮かぶね」
「そんなところでしょうか……」
「君達の世代と、上の世代の違いの1つは、彼らが、more and more(多ければ多いほどいい)、と考えていることだ」
「つまり、『じゃんじゃん持って来ちゃって』ってことですね。じゃあ、僕達は……?」
「less is more(物事はシンプルなほうがいい)なのではないかと、私は考えている」
「“もったいない”ですか」
「私はスウェーデンで行なわれた『2040年のユートピアを考える』という会議に出席したことがある。そこで印象に残ったのは、すでにヨーロッパでは『モノを作る』ことは悪だと考えていることだ」
「悪……」
「モノはいずれゴミになる。それは廃棄コストにつながり、最終的には、社会的損失となる。家具や家電をアジアや東欧で大量生産してタンカーで運んで売りさばくなんてことはとんでもない時代錯誤だと思っている」
「でも今現在それを行なっている国がありますよね」
「アジアなどはね」
「でも、作らなければ、いずれモノはなくなってしまいますよね」
「作らなくても、モノを調達することは可能だ。たとえば、コミュニティを利用して、必要なものをお互いに譲り合う方法」
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