システムを運営するマジョリティが少数派になる
「少数派と多数派が逆転すると……」
「一見矛盾するようだが、内容はこうだ。マジョリティというのは、これまで作り上げてきた世界・システムを維持・運営する人々。現在の資本主義の仕組みも、このマジョリティが維持しているよね。マイノリティというのは、そこからあぶれているが、新しい仕組みを作り出そうとする層のこと。具体的には、ニート(60万人、疾病ニート、コミュ障ニート、高学歴ニート等)、若年派遣労働者、LGBT(同性愛者、性別越境者など。15人に1人)、シングルマザー(70万人)、独居老人(100万人)、年収200万円以下(1000万人)、つまり社会のレールから外れた人達。こういった人達が、正規雇用労働者、従業員1000人以上の会社での勤務、専門職、公務員およびその家族の総人数よりも多くなっているということなんだ」
「つまり、少数派と多数派の逆転だ……。でも、それは、格差社会とどう違いがあるのですか?」
「格差がある一定まで来ると、社会のシステムが変わる。マジョリティの社会システムというのは、タテ社会だ。これは、一番下から、労働やお金や選挙の票やらを吸い上げて、上からシャワーのように降らす、という仕組みのことだ」
「昭和の日本の姿ですね」
「一方、マイノリティというのは、中心をくりぬかれた周辺にいる」
「周辺……」
「住んでいる所も郊外が多い。彼らは、どうするか?」
「ヨコでつながる……」
「そう。そして必要な資源をヨコで互いに融通し合うというシステムを作るんだ。これは、上からシャワーのように降らす縦社会とは違う。社会システムのあり方が全然違うんだ」
「確かに都心では隣の家に無関心というところもありますよね。郊外の住宅のほうが、お互いの行き来も多い気がします」
「そうだね」
「僕の家ではよく、夫婦喧嘩して怒りを吐き出しに、近所のおばさんが来てました」
「それは微笑ましい」
「今思えば微笑ましいですけど……。当時はリビングがおふくろとおばさんで占領されるんです。テレビがリビングにしかなかったので、好きなアニメが見れなくて、めちゃくちゃおばさんを恨んだのを覚えてます。『あの家の夫婦喧嘩のせいでアニメが見れなかった!』って」
「いやいや、しかし君の田舎は、そんなコミュニティがあるおかげで、離婚率が低いのかもしれないね」
「確かに」
必要なのは「コモディティ」でなく、「承認」である
「マジョリティが、下から吸い上げて、上から降らすことができるものは、当然ながら数字で測ることができるものに限定される。いわゆるコモディティ(匿名の製品・サービス。たとえば金・票・エネルギー)というものだ」
「一番わかりやすいのは、給料ですね」
「そう。逆にいえば、オリジナルなもの、たとえば、“ピカソが皿に描いた絵”なんていうのを全部吸い上げて流すのは不可能だ。そしてこの“コモディティ”というのは、要するに、生活(衣<医>食住)に必要な水や食料や住居だ。人間の基本的な生活に必要なのはこういったコモディティだから、人々が生存欲求を求めている時代にはこちらが便利だった」
「戦後の日本とかはまさにそれでしたね」
「でも、今の時代を見てごらん? 自殺する人は多いけど、餓死する人はまずいない。つまり、生存欲求というのはすでに満たされているんだ。むしろ断食や不食がブームになる時代だ」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。