FOK46—フォークオーケン46歳
【第10回】よろこびとカラスミ

30年以上音楽活動を続けてきた、ロックミュージシャンの大槻ケンヂさん。いままで弾けなかったギターを、40を過ぎて始めたオーケンの胸には、どのような思いがあったのでしょうか。今回は、ヴィンテージギターに夢中のオーケンのところへかかってきた一本の電話から、ある魅力的な同級生との思い出が語られます。

 小学校5年の時に、クラスに転校生が入った。

 小柄で美少年な彼はハバくんという名で、まだ友達の出来ない内は長いまつ毛をふせて机に黙々とランボルギーニ・イオタのとても緻密な絵を描いていたが、体育の授業になるや50m走で、学年一足の速い青木くんをスカッと抜き去り一躍ヒーローとなった。青木くんは、号泣した。

 昼休み、その謎の転校生が、ロックバンドのキッスについて語り合っていた僕とウラッコのところにやおら近づいてきて「うちにシンセサイザーがあるから、ロックを聞くなら今度見に来なよ」と言った。
 当時シンセサイザーなんてものは富田勲くらいしか持ってはいないと思っていた小学5年生は仰天し、さらに「シンセで曲も作っているんだ」シレッと言ってのけたスーパー転校生を口アングリで見返したものだ。

 ハバちゃん(青木くん抜き去りによってすでに彼に対する同級生たちの呼び方はそう変化していた)は僕に、その後の僕の人生を大きく変化させることとなる、ロックというテーマ、を教えてくれた者たちの一人だ。
 ロックのみならずクリエイティブに対する彼からの影響は大きかった。
 特に作詞においては「井上陽水を勉強するべきだ」と何度か念を押された。小学校5年生が同級生に、教室や理科室で、である。
「陽水のようにアイロニカルでシュールであるべきだ、作詞は」
 とハバちゃんはそう言って、「氷の世界」「感謝知らずの女」「限りない欲望」といった井上陽水の詞を歌って聞かせたのであった。

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小説 FOK46—フォークオーケン46歳

大槻ケンヂ

30年以上音楽活動を続けてきた、ロックミュージシャンの大槻ケンヂ。楽器演奏と歌を歌うのを同時にできないという理由で、ボーカルに徹してきた彼が、2012年、ギターの弾き語りでのソロツアーを始めた。その名も『FOK46(フォークオーケン4...もっと読む

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