日本料理とフランス料理の共通点
—— マイケルさんは、ル・コルドン・ブルーパリ(以下、コルドン・ブルー)卒業後の2007年に日本にいらっしゃったんですよね。なぜ、フランス料理の次が日本料理だったんですか?
マイケル・ブース(以下、マイケル) コルドン・ブルーのシェフは日本料理にすごく好意的でしたし、僕が研修生として働いたラトリエ ドゥ ジョエル・ロブションも日本料理の影響を大きく受けていました。
でも僕にとって決定的だったのは、コルドン・ブルーの同級生からもらった辻静雄さんの『Japanese Cooking: A Simple Art』という本ですね。あの本で僕は和食に目覚めたんです。
左からマイケル・ブース、ギヨム・シグレ。
ギヨム・シエグレ(以下、ギヨム) 世界のシェフにとっての、日本料理のバイブルですね。
マイケル ええ。あの本を読んで、フランス料理とは正反対の料理が日本にあるかもしれないと思うようになったんです。で、実際その通りでした。それについては『英国一家、日本を食べる』で書いています。
ギヨムさんは2007年からコルドン・ブルー東京校でシェフをなさっていますよね。日本料理とフランス料理の違いについては、どのようにお考えですか?
ギヨム 食材、調理法、味付け、食べ方など、すべてが違いますよね。
フランス料理だと牛や豚、鶏肉が多用されますが、日本料理だと魚介類がふんだんに使われます。あと日本には食材の「切り方」のバリエーションがびっくりするくらいたくさんありますよね。特に魚の場合がすごくて、日本だと魚の種類ごとにおろし方が違いますが、フランスだと「ヒラメ」と「それ以外」、この2つだけ(笑)。
マイケル フランスの魚料理は火を通すことがほとんどですが、日本料理は刺身や寿司など、生魚を使う料理が多いですよね。
ギヨム あと、味付けも違いますね。日本料理で印象的なのは醤油や味噌ですが、フランス料理は、塩コショウが味付けの基本。それから、フランス料理では皿の上の料理にソースをそのままかけますが、和食では醤油皿などを別に使うといった点が印象的です。
マイケル 料理のテクニックや味付けといった点では、日本料理とフランス料理がまったく別物だというお話は納得です。でもね、もっと深層の部分では共通点があるように思いませんか?
ギヨム ほう。というと?
マイケル どちらの国も、郷土料理のバリエーションがすごく多いこと、それと、どちらも季節の食材をふんだんに使った料理をつくるという点て共通しているなあ、と感じるんです。
ギヨム あ、たしかにそうですね。フランス料理に5世紀という長い歴史がありますが、これは戦争の歴史と重なります。フランスの料理って、各領主たちがいかに自分の領地が優れているかを自慢しあうためのものでもあったんです。だから、それぞれの地域でおいしくて高級な料理が独自に発展していったという事情がある……。
日仏共通の「イギリス料理」批判
マイケル もうひとつが、有名な「イギリス料理はまずい問題」です(笑)。フランス人も日本人も口をそろえてそう言いますよね。
ギヨム えーと、そうかも(笑)。「イギリス料理には2種類しかない。焦げているか生煮えか」なんて話はよく聞きます。
僕らフランス人は、誰にでもつくれるような簡単な料理を「キュイソン・アングレーズ(英国風の料理)」と言うんですが、これにはちょっとバカにするようなニュアンスが含まれています。
—— (笑)。とは言っても、イギリス料理界にも評判のいい料理家は何人もいますし、おいしい料理もありますよね。マイケルさんはこれまで「フランスを食べる」「日本を食べる」と書いてこられたわけですが、「イギリスを食べる」を書くご予定は?
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