『サマーウォーズ』(’09)、『おおかみこどもの雨と雪』(’12)とヒット作品を連発する人気アニメ監督、細田守の最新作は、渋谷を舞台にしたファンタジー。本作も興行成績はきわめて好調な滑りだしであり、ヒットメーカーとして安定した支持を得ていることが証明された。
主人公の少年、蓮(9歳)は、両親の離婚後、母親と共に暮らしていたが、交通事故で母親を失った。失意のなか逃げだした少年は渋谷へたどりつくが、警官に誰何され、あわてて裏路地へ身を隠す。その裏路地は、バケモノの世界へと通じる秘密の抜け穴で、バケモノたちの住むパラレルワールド「渋天街」へとつながっていた。やがて少年は渋天街の住人となり、熊徹と呼ばれるバケモノの弟子となって、彼から武道を習い始めることとなる。
細田守監督の作品群から、ごく自然に立ち上がる「健全さ」に私は興味が尽きない。それこそが細田作品を特徴的にしているといっていいだろう。今回の『バケモノの子』でも、主人公が持つ健全さに感心してしまった。広い世界に興味を持ち、武道を身につけ、きちんとものごとにぶつかって悩み、ときには心の闇を抱えつつも、他者との関係性によってみずからの闇を克服する。こうしたストレートな描写に、いっさい迷いがないのが細田作品のユニークさなのだ。
健全、などと形容すると拒否反応があるかもしれない。しかし、細田作品の健全さとはストーリーの推進力にほかならず、物語世界にポジティブな説得力を与えるために欠かせない要素となっている。さらにつけくわえるなら、細田は決して興行的な要請であるとか、情操教育に有用な映画を作るといった使命感からそうしているわけではない。作為がないからこそ、細田作品は広く支持されているのではないか。細田本人がほんらい持つ性質が健全だからこそ、映画もまた健全なのだ。
さて『バケモノの子』から発せられるメッセージを列挙してみよう。「他者から何かを教わること、学ぶことの重要性」「読書の滋養」「学校教育の有意義さ」「広い世界を知りたいという欲求」「己の闇に対峙し、それを克服すること」。どれもが、ぐうの音も出ないほどに王道のテーマであり、その通りと頷くほかないものばかりだ。