“日本SFの夏”の見取り図—伊藤計劃以後

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 今回は夏真っ盛りということで、二年前のSF界の見取り図を紹介する「新SF観光局」の第34回を再録します(SFマガジン2013年9月号より)。

 去年、中央大学文学会に呼ばれて、“SFの今”というテーマで話をしたとき、終了後の懇親会でスタッフの学生から聞いてなるほどと思ったんですが、“伊藤計劃以後”という線が引かれたことで、SFを読みはじめるハードルが低くなったのだという。星新一・小松左京・筒井康隆(もしくはアシモフ、クラーク、ハインライン)まで遡って、膨大なSFの蓄積を読まないといけないと思うとそれだけで気が遠くなるけれど、とりあえず“伊藤計劃以後”だけフォローしようと思うなら、一気に楽になる。伊藤計劃から飛浩隆や長谷敏司や円城塔を読み、そこからイーガンやチャンに挑戦して、余裕があればギブスンやスターリングに遡ってもいいし、神林長平に行ってもいい(実際、大学読書人大賞で『いま集合的無意識を、』の推薦文を書いた関西大学現代文学研究部の女子学生は、伊藤計劃経由で神林長平を知り、はじめて読んだ神林作品が同書だったという)。

 要するに、新本格ミステリの勃興期、綾辻行人『十角館の殺人』が果たした役割(古典を消化する義務のリセット)を、伊藤計劃『虐殺器官』『ハーモニー』が果たしているわけですね。

 そういう現状認識のもと、ゲンロンスクール(東浩紀プロデュースの五反田のゲンロンカフェで行われる三回連続のテーマ講演)で頼まれたSF講座は、あえて(もちろん集客にも配慮して)、「SFに何ができるか―“伊藤計劃以後”の現代SF展望」というタイトルにしたんですが、大学生の参加者たちに話を聞いてみると、やっぱり、今の日本SFの話をしてほしいというリクエストがいちばん多かった。

 これがゲンロンカフェだけの特殊ケースではない証拠が、本誌今月号とほぼ同時に店頭に並ぶ、限界研(旧・限界小説研究会)編のSF評論アンソロジー、その名も『ポストヒューマニティーズ―伊藤計劃以後のSF』(南雲堂)。具体的には、“〈日本的ポストヒューマン〉を現代日本SFの特質ととらえ、活況を呈する日本SFの中核を担う作家(伊藤計劃、円城塔、飛浩隆、瀬名秀明、長谷敏司、宮内悠介)の作品を中心に論考する”という。まさに、今の日本SFの見取り図を書く試みと言っていいだろう。

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大森望の新SF観光局・cakes出張版

大森望

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コメント

wahoo910 うーん、SFマガジンの「伊藤計劃以降」の月の号、買うか迷うなあ 4年以上前 replyretweetfavorite

foxhanger SFにおける「科学派」「文学派」の相違でどうしても気になるのは、「初音ミク小説」である『南極点のピアピア動画』と『ヨハネスブルグの天使たち』。https://t.co/YSrpBOporH 4年以上前 replyretweetfavorite

117Florian https://t.co/toKPn2YXr5 「ポストヒューマニティーズ」? あ、原稿が古いのか。 4年以上前 replyretweetfavorite

ShosoStripper |大森望の新SF観光局・cakes出張版|大森望 @nzm |cakes(ケイクス) 岡和田晃については炎上芸人というイメージがある。 https://t.co/5OjCBOxJ02 4年以上前 replyretweetfavorite