出会ってはいけない二人だった。
寄り添ってはいけない魂だった。
■蘇る名作
本書は二〇〇〇年に邦訳・出版された『霊応ゲーム』の文庫化である。
出版時、手にとった人からは名作・傑作と高く評価されたものの、決して大ヒット作ではなかった。年末のランキングで上位に入るようなこともなかった。そしていつしか、店頭から姿を消した。
けれど確実に、強く、読者の心を捉えたのである。時間をかけながらじわじわと広がった「何これ、すごい」という声。評判が評判を呼び、ネットには入手できないことを嘆く書き込みが増えた。古書価格が高騰し、復刊や文庫化を望む声が上がり、広がり、高まり、熱を帯びた。
単行本出版から十五年。お待たせしました。ようやく文庫でお届けできます。
まずは本作のファンのひとりとして、「復刊して!」と叫んでくれた多くの読者にお礼を申し上げたい。この名作が蘇ったのは、あなたのおかげです。
■ 英国パブリック・スクールの深遠なる世界
さて、では本書の何がそれほどまでに読者の心を掴んだのか。まずはアウトラインを説明しておこう。
物語は一九九九年、スクープを狙うジャーナリストが、四十五年前にとあるパブリック・スクールで起きた事件について関係者に話を聞く場面で始まる。この関係者が誰なのか、どんな事件だったのかはこの段階では明かされない。
そこから話は一九五四年に遡る。イギリスのノーフォーク州にある全寮制の男子校、カークストン・アベイ校が舞台だ。誠実だが少し気弱な十四歳の少年ジョナサンは、ラテン語の教科書を忘れてしまい、同級生のリチャードに見せてもらうことに。ルックスが良く勉強もできて、なのに一匹狼で孤高を保っているリチャードを、ジョナサンはずっと羨望の眼差しで見つめていた。
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