イギリス的、出産ドキュメンタリーの作られ方
前回は、イギリスのチャンネル4という放送局のOne Born Every Minutesという、出産ドキュメンタリーをご紹介しました。
チャンネル4は、イギリスの4番目の地上波放送局で、開設は1982年です。それまでイギリスにはテレビのチャンネルが、BBC1、BBC2、ITVの3つしかありませんでした。
チャンネル4は、公共放送として設立されました。つまり、国が所有するテレビ局です。開設の目的は、BBCとは異なった視点の番組を放送することでした。公共放送である一方で、規制緩和の波を受けて、民間放送局になり、収入の大半をテレビCMに依存しています。しかし、一応公共放送なので、2003年通信法により、「社会に多様な視点を与えるもの」「社会的な意義のある番組」など、社会に良い影響を与える番組を放送するように、という規制を受けています。
その他にも、イギリスに関するニュースの放送時間、放送枠、政治や金融危機など社会情勢に関する番組の放送、教育に関する番組の放送、児童に関する番組の放送状況、ロンドン以外の製作会社を使用した割合など、細かい規制を受けています。
1990年放送法の第42項では、放送法に違反して規定に沿って番組を放送しなかった場合、放送局は罰金を支払うことになっています。罰金の最大額は500万ポンド(£1=180円換算で約9億円)もしくは昨年度会計年度の収入の7パーセントです。放送局の中には、規制に違反して罰金を払う羽目になることもあります。例えば民放であるITVがかなり大きな罰金を支払ったのは記憶に新しいです。
イギリス政府がこのような細かい規制をもうけ、テレビ放送のチャンネル増設にも慎重だったのは、テレビというものの力を、政府側がよく理解しているからです。テレビは大衆に対する強烈な「洗脳装置」になるので、「神の見えざる手」、つまり、民間会社同士の自由な市場競争にだけに任せておくと、国民にとって悪影響がある、と考えているのです。このようなアプローチは、自由市場を是とするアメリカの考え方とは随分違います。
さて、そのような細かい規制を受けているチャンネル4ですが、一応「社会の多様性を推進する番組」や「教育的意義のある番組」を放送しなければなりませんが、その一方で、民間放送局でもあるので、視聴率を稼がなければなりません。