突然の上司の退職…残された営業部員の選択

現代人は意志の力が弱くなっている……。行動を決めてやり抜く事、そんな簡単なことができないのはなぜなのか? 上司の坂井が退職した営業部では、あっという間に以前のような空気に戻っていった。そんな中、美沙はひとつの荷物を坂井から受け取っていた。

「おはよう。浅井さん、相変わらず早いねぇ」

美沙が部員宛のFAXを配布していると、穏やかで抑揚のある声がした。振り返ると、

「こ、越野部長!? あっ、部長ではなくて……いまは室長でしたね。今日はご出張ですか?」

坂井の前任、越野は現在、岐阜工場の生産管理室を任されていた。

「いやぁ、浅井さん久しぶりだけど、8時前に仕事を始めているあたり、ほんと変わらないなぁ」微笑みながら美沙に近づく越野もまったく変わりがない。似顔絵にしやすい、七福神の布袋さまのような目をしている。

「越野室長もお変わりなく。でも驚きました。半年ぶりですよね?」

「そうだね。異動してから初めて東京本社にきたからね」

「会議か何かですか?」

「いや。実は、マイクロ営業の部長に戻ることになってね。ほんと急な人事で僕も驚いたんだけど」

 えっ? どういうこと? 美沙はその言葉を咀嚼できないでいる。

前任の坂井くんが退職することになってね

そんな……なんで? 越野が知り得る由もないのだが、目の前の越野に疑問をぶつけざるをえない。

「な、なんでそんな急にやめるんですか?」

「いやぁ、僕もわからないんだよ。ただ、坂井くんがどうしても退職しなくてはならないから、来週からマイクロ営業部長に戻ってくれと言われてね。まったく、いつの時代も会社の人事は急だから困るよ。まぁ、僕としては単身赴任だったから、東京に戻れたのはありがたかったけれどね。またみんなと営業できるのも嬉しいよ。そういえば、浅井さんも営業についているとか?」

越野の顔から微笑みが消え、まゆげが上がる。越野が疑問を呈するときのクセだ。

「そうなんです。まだ一ヶ月あまりですが」

「浅井さん、営業がやりたいの?」

「いや……やりたいというわけではありませんでしたが……」

「じゃあ、無理にやる必要はないよ。なんだか坂井くんは少し強引なところがあったみたいだからね。浅井さん素直だから、なんでも聞いちゃったんだと思うけど、これからは無理しなくていいからね。事務の方で、精一杯サポートしてください」

「は、はい」

話の流れ上、気づいたら美沙はそう答えていた。しかし胸のざわめきは肥大するばかりだった。

その日の午前中に、営業陣にも人事異動の詳細が告げられた。はじめこそ唖然とする営業陣だったが、午後イチにはすべてを受け入れているように美沙には見受けられた。もともと越野は、営業成績をとやかく言うこともなく、部員を叱るなんてもってのほかだった。常に微笑でひな壇に存在する越野は、部員からの好感度も絶大だった。その越野が戻ってきたという事実は、少なからず3億予算達成という部員のプレッシャーを排除した。

なんだか一気に空気が変わった。

その事実に、美沙はどうしようもない不安を覚えずにはいられなかった。

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仕事なんて、生活のため、寿退社までの腰かけに過ぎないと思っていた――。 そこに突如まいこんだ『希望退職者募集のお知らせ』。 やる気ゼロの崖っぷちOLが会社の魂を揺り動かすようになるまでの奇跡の成長を描く。 Yahoo!トピッ...もっと読む

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chiponyo 公開されました!|[今なら無料!]キラキラワードに騙されるな! 私たちはやる気をなくす言葉に囲まれている 4年以上前 replyretweetfavorite