「胸を張って帰ってきていい」とか言うな
W杯の決勝で敗れてしまった「なでしこJAPAN」に向かって送られた、「なでしこは胸を張って帰ってきていい」というエールの心地悪さは何だろうかと数秒考えた。答えはすぐに出る。当人の態度を外から提案する謎めいた働きかけ「胸を張っていい」は、高校野球部のOBが、甲子園の初戦で敗北してしまった母校の選手に対してかける言葉だ。高校の視聴覚室で観戦している年配のOBが、「県大会を勝ち抜いたんだし、おまえたち、よく頑張ったよ」と声をかける先輩風の典型である。つまり、2大会連続でW杯決勝の舞台に立ったアスリートに向かって先輩風を吹かせていたのだ。赤面すべき事態である。
キャプテンの宮間あや選手が、準決勝のイングランド戦でPKを決めた後、ベンチにいる控えメンバーの元へ一目散にダッシュ、はにかみながら一瞬で皆と抱き合い、一瞬で表情を元に戻してピッチに戻っていった。「喜びを分かち合うこと」と「まだまだ喜びを分かち合っていてはいけない」を同時に見せるキャプテン心、カッコいい瞬間だった。その様子を伝える側は「控え選手とも一致団結しているなでしこ」とまとめていたが、すぐに折り返してピッチに戻った姿にこそしびれた。
「日本の女性には古来、集団の力や和を重んじる文化が……」
宮間が、帰国後の会見で女子サッカーを「ブームではなく文化にしたい」とし、「私たちは結果を出し続けない限り、人気が離れてしまう不安を抱えている」と引き締まった表情を見せたのは、「胸を張って帰ってきていい」という謎の餌付けからニョキニョキ生える突発的なブームを早速牽制するかのようでもあった。
「胸を張って帰ってこい」系メディア=「先輩風」メディアは、やっぱり女子である特性を繰り返し使う。例えば、『サンデー毎日』(7月19日号)の表紙コピーには「なぜ世界の舞台では女子のほうが強いのか」とあり、記事の見出しに目を向ければ「『女子力』を引き出した監督手腕」とあり、記事の内容を追えば「日本の女性には古来、集団の力や和を重んじる文化があります」とある。宮間が言う「文化」は絶対に、この手の「女子文化」ではないだろう。個人の鍛錬の集積を、チームワークではなく「女子力」として伝えてしまう。そんな「男子力」報道は、なでしこをまたしても文化から遠ざける。
週刊誌的な「女子力」を語る佐々木監督
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。