「忘れられる権利」は日本の裁判所でも主張できるのか
検索結果の削除請求に対し、日本の裁判所で、グーグルは、「自分たちはネット上の情報を自動的に機械的に集めてインデックス化しているだけなので削除義務はない」「リンク先が問題ならリンク先に削除請求すればいいことで、我々は記事を管理する立場にない」と、昨年9月までは一貫、主張してきました。
この点について、EU司法裁判所は、昨年5月に、「忘れられる権利」を初めて明文化し、「検索結果はグーグルのコンテンツであり、グーグルはサイト管理者なので削除義務がある」と判断し、検索結果の削除を命じています。
EU司法裁判所の判決を読んだ私は、すぐに、「日本でも同じ請求ができるのではないか」と考えました。
「検索サイトの〝管理者〟であるグーグルは、〝コンテンツ〟である検索結果を削除する義務がある」と判断していると読んだ私は、「これは、日本の裁判所でも主張できる」と思い、すぐに動き出しました。
「表現の自由」と「プライバシー権」を比較較量し、「プライバシー権」が優先する場合は削除請求できるという法的な論理は、日本でもあまり争いのないところです。問題は、グーグルなどの検索サイトに対し、リンク(検索結果)を削除請求できるかどうかという点です。東京高等裁判所では、「リンク先が違法ならリンクも違法」という判決が出ていますので、「リンクだから削除できない」というのは理由にはなりません。
過去、ヤフーに対し「リンクだけの記事」の削除仮処分を申立てたところ、裁判官が認容しそうだとわかるや、ヤフーは争うのをやめ自主的にリンクを削除したことがありました。検索サイトにとって、リンク自体が違法だという認容例は残したくなかったのだろうと推測されます。
では、「単にネットの情報をインデックス化しているだけ」との主張についてはどうでしょうか。
東京地方裁判所のヤフーに対するインターネット検索結果削除等請求事件では、「現代社会における検索サービスの役割からすると」として検索サイトに特殊な地位を認めているように見えます。
しかし、検索サイトも歴史的にはコンテンツプロバイダのひとつに過ぎないのですから、特別扱いする必要もないだろうと私は考えていました。なぜならば、他のコンテンツプロバイダに対しては、「誰がオリジナルのデータを作ったか」「当該プロバイダの主観」などとは無関係に削除義務が認められているからです。
ならば、検索サイトに対しても、そのサイトが管理しているサービス内容については削除義務があると評価することも可能ではないか。コンテンツプロバイダがコンテンツを「管理」していることと同じく、検索サイトは「検索結果というコンテンツ」を「管理」していると主張すればよいのではないかと思いました。
東京地裁で「グーグル検索結果削除命令」が下されるまで
EU司法裁判所の「検索結果はグーグルのコンテンツである」という判決を受け、私はグーグルの米国本社に検索結果の削除を求める「削除仮処分」の申立を相談者に提案することにしました。
私のところに相談に来たひとりの男性は、自分の名前で検索すると、犯罪にかかわっているかのような検索結果が多数出てくることに長い間苦しめられていました。新聞社が彼にインタビューした記事によると、書き込みの削除をサイト管理者に求め続けて4年。消しても、消しても、拡散し、削除にかかる費用もかさんでいたとのことです。また、取引先からは取引を断られるなど、ビジネスにまで支障が出始めていたそうです。まさに、ネット上の書き込みに生活が脅かされていたのです。
さらには、「名前を検索されるかもしれない」という強迫観念が頭から離れず、「名刺交換をするのも恐怖に感じるほど切迫していた」とも、インタビュー記事には書かれていました。
そこで彼は、検索結果に出なくなればいいと考え、グーグルに検索結果の削除を求めることにしたのです。
「削除仮処分」を申立てる先は、グーグル日本法人ではなく、米国グーグル本社(海外法人)にしました。グーグル日本法人に削除請求をしても、「グーグル日本法人にはデータ管理権がない」と主張され、これに対する有効な反論手段もありませんので、裁判はすぐに負けてしまいます。そのため、仮処分の債務者、削除訴訟の被告とするのは米国グーグル本社となります。
もっとも、米国法人を法的措置の相手にするからといって、米国の裁判所で訴える必要はありません。日本の裁判所で削除請求をすることが可能です。
米国グーグル本社と、東京地裁で一騎打ち
裁判の日は8月下旬に設定されました。その後は、約2~3週間に一度の頻度で双方審尋期日がありました。
グーグル側は相変わらず、「我々はネット上から自動的に機械的に情報を集めインデックス化しているだけなので我々には削除義務はない。我々はそれを管理する立場にない」といつも通りの主張を繰り返してきました。
そこで、こちらからは「自動的に機械的に集めてきているものがあなたたちの〝コンテンツ〟ではないか。そして、その〝コンテンツ〟をあなたたちのサイトが管理しているのではないか」と主張しました。
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