イラスト:長尾謙一郎
バンドとは、長い旅路のようなものである
大谷ノブ彦(以下、大谷) 今回はGLAYの話でいきましょう。このバンドについてはね、僕は語りたいことがたくさんあるんです。
柴 テーマは「GLAYに学ぶブランド論」。僕も最近になって気づいたんですが、実はGLAYというバンドから、最強の「ブランド戦略」を学べるんじゃないか?と思うんですよね。
まず、彼らは今年20周年を迎えて、10年ぶりの東京ドーム公演を成功させた※わけですが——。
※「最高の夢をありがとう」GLAY、10年越しの東京ドームライブ開幕 - 音楽ナタリー
大谷 行ってきましたよ! ほんとに最高だった。号泣しました。
—— 号泣ですか?
大谷 アンコールの最後、みんな泣いてたんですから。今の彼らのライブは、ただのヒットソングのメドレーじゃないんです。あくまで『MUSIC LIFE』というニューアルバムが中心になっている。最後にやったのがその表題曲なんですが、これ、函館でバンドを始めた少年たちの歌なんです。
柴 前にもこの連載「FooFighters、U2、GLAY……大御所たちが思いを馳せる初期衝動と歴史の物語」で語った、GLAY自身のアマチュア時代と今を歌った曲ですね。いろんなヤツがいなくなったけど、俺達は続けてるって。
大谷 あの曲を聴いて「ああ、俺のことだ」と思ったんです。自分と同じだ、って。きっと、みんなそうだったと思います。GLAYと出会って、あれから20年経った。「あんなこともあったな、こんなこともあったな」って思い出していたんじゃないか、と。
柴 そんな彼らのアクションを踏まえて、デービッド・アーカーというブランド・マーケティングの大家の人が書いた『ブランド論』という本の冒頭を読むと、すごく腑に落ちると思います。こう書いてある。
ブランドとは、長い旅路のようなものである。顧客がそのブランドにふれるたびに生まれる感触や体験をもとにして次々に積み重なり変化していく顧客との関係だ
柴 この「ブランド」を「バンド」に、「顧客」を「ファン」に読みかえると、まさにGLAYのことになる。「バンドとは、長い旅路のようなものである……」という。
大谷 なるほど! たしかに今言った通りの話だ。
柴 で、もう一つ、デービッド・アーカーは本の中で「ブランドとは約束を守ることである」と言っているんです。そしてGLAYにとっても「約束を守るバンド」というのが大きなポイントになっている。
大谷 そもそも東京ドームでやるというのが「10年ごしの約束」ですからね。
柴 そうそう。今から10年前の1995年に彼らは東京ドームでライブをやっているんですけれど、そのステージで、ボーカルのTERUさんが着ていた衣装の白いジャケットをマイクスタンドにかけて「10年後、このジャケットを絶対取りにくるから」と言っていた。
大谷 もちろん今回のライブでもその白いジャケットを着ていた。
柴 単にライブをやるだけじゃなく、東京ドームのステージに立つこと自体がファンとの約束を叶える熱いストーリーになっているわけですね。
大谷 さらに2日目はスペシャルゲストでYOSHIKIさんが登場しましたから。これがまたすごかった。
柴 どんな感じでした?
大谷 アンコールのときに、ピアノがせり上がってきて、白い服を着たYOSHIKIがゆっくりと出てくる。もうその瞬間に大歓声ですよ。
柴 GLAYにとっては、YOSHIKIはデビューのきっかけになった大恩人ですからね。
大谷 で、彼がプロデュースしたデビュー曲の「Rain」を一緒に歌うわけです。「デビューのきっかけを作ったのは僕かもしれないけれど、20年間支えてきたのはスタッフでありファンだと思います」と言って、そこでも感動させる。
柴 YOSHIKIさんは、どんな場所でも登場した瞬間にその場の主役になってしまうタイプの人ですよね。
大谷 最後に「ウィー・アー・X!」って5万人にやらせてたからね。GLAYのライブなのに。
柴 ははははは!
成功するアーティストは「表現者」と「経営者」を兼ね備える
大谷 でもね、こういうブランド論の話は、GLAYが最初じゃないんですよ。もっと前に先駆者がいる。
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